多分、よくあるひとつのハプニング

通訳者に連れられて

電動カートに乗せられた僕らは、到着客と同じルートで、つまり、もう一度入国カードを記入してから審査ゲートを通り抜ける。

一つ心配だったのは、「いったん積み込んだ手荷物を抜き取ることとなるので、お2人のものに間違いないかどうか確認してもらいます」というスーツケースが、果たしてちゃんと戻ってきてくれるのかということ。操縦士、乗務員、そして割れ物扱いの手荷物が出てくる特別扱いのターンテーブル前で、しばらくの間、不安な思いを抱えつつ待たされる。

時刻は当初出発予定の13:15をとうに過ぎて15:00になっている。「もうAC003便は出たろうか?」(・・・出たろうな。)「荷物だけ成田に向かっていないだろうな・・・」

僕ら2人の側には、エア・カナダのYさんという日本人通訳者がずっと側にいてくれた。おかげで、僕らは不安ではあるけれど、全て彼女が手配してくれる手続きに従っていればいい。

ギャスタウンの街角
ギャスタウンの街角

岡村孝子を思わせるYさんは、そのおっとりした雰囲気までもがとてもよく似ていて、あとで思い出す時に本当に便利なくらいの女性だった。万事において控えめで、存在感がそのまま自己を主張しているような欧米人とは対極の位置にあるタイプ。僕らにとっては一大事の事態でも、それが通訳者の責務なのか、努めて感情をあらわさずに、エア・カナダ社や空港職員の指示を淡々と通訳して伝えてくれる。それ以外は全く余計なことを言わず、余計なアクションも見せずに本当に静かに立っている。自分の存在感を打ち消そうとしているのかと思わせるくらいに。

欧米人と日本人の態度ということ

そもそも相手側のミスで搭乗できなかった僕らは、本来、あれこれと指示される立場ではないはずだ。けれども、そこが欧米人と日本人の力関係というべきか、存在感の差で、空港の行く先々で面倒な特別扱いの弱い立場に立たされてしまう。僕らの側に非があるかのように、怪訝な顔で尋問を繰り返される。

搭乗口でオーバーブッキングが判明した時点から、僕らはただの一度もエア・カナダ社から謝罪の言葉というものをきかされていない。搭乗口でチケットを切る職員、入国審査官、新たな発券手続きを行う社員、空港使用料の払い戻し・・・。それら各職務を担当する職員は、ただ組織の一員として自らの職務を忠実にこなすだけ。彼らは、僕ら3人の日本人が予定の便で帰国できなかったことに対する責任を感じている様子など全くない。

「それはそうだろうな」と僕も納得しつつ、でも同情してくれるというか、事情を説明しているのだから、ちょっとくらい気遣ってくれる態度を表すことがあってもいいんじゃないかと思えてくる。今回に限ったことではないけれど、そもそも海外の空港にいる職員というのは、大体において尊大で高飛車な態度だ。どうしたらあんなに威圧的な顔になれるのだろうか? そういう訓練でも受けさせられるのだろうか。厳しさの要求される職務ということは分かるけれど、正統性のない毅然さには反感さえ覚えてしまう。

対岸キツラノ
対岸キツラノ

そんな中だからこそ、余計にYさんの姿は日本人的だった。単に自己を主張するのではない、「慎ましさ」というものが素晴らしい美徳であることを再認識させてくれる。最後にようやくビジネスとしてでない話をする中で、Yさんの生家が神戸だとか(なるほど、おっとりなお嬢様なわけだ)、妹さんが今、妻の実家と同じ区内におられるらしいことや(奇遇だ)、そういったちょっとだけパーソナルな部分に触れることができた僕は、彼女に大和撫子という言葉を思い出してしまったくらいだ。

補償というほどのものはなく

搭乗できなかった補償として手配されたのは、空港近くにあるこのデルタホテルの宿泊と夕食、朝食のみ。帰国が一日延びれば、当然、仕事ができないことに始まり、個人的に手配していた帰国後の移動手段や宿泊先のキャンセル料も生じてくる。細かなことでは、スーツケースのレンタルにも延長料金が課されようし、これが一番不安だったのだが、傷害旅行保険の期限も否応無く切れてしまう。仮に救済されることかもしれない場合でも、こうした状況で、そのために必要な「証明書」を出してもらおうという気力まではわいてこない。

あくまで宿泊と食事という最低限のみの補償で、金銭的補償というものは全くなかった。最近人気の法律番組に出てきそうな、こうしたケースでの補償が本来、どこまで要求できるものなのか、知りたい気もする。

そのホテルでの食事、日本のビジネスホテルでの朝食券のようなものがもらえるのだろうという感覚でいたら、そうではなく、昼食を含めて3食ともに決められた上限金額までを負担してもらえるという形のものだった。けれども、この上限金額が本当に最低限ともいえないようなもので、夕食が一人13ドル足らず、朝食に至ってはわずかに6カナダドル足らず。一応は立派なホテルのレストランで、日本円にして夕食が千円と少し、朝食が500円少々で頼めるものなど、そもそもメニューにあるはずがない。結局、3食共に上限金額の倍以上の自己負担(+チップ)になってしまう。

「やれやれ、搭乗直前にキャッシュを使い切ろうとしたところに、再び、トラベラーズ・チェックを崩すこととなるなんて」。

T/Cさえ使い切っていたらどうするんだ。

もう一つ、エア・カナダ社からのせめてもの「サービス」が、一人500カナダドルの旅行クーポン券。といっても、使える路線は当然ながらエア・カナダのラインのみで、全然嬉しいものではない。次にまた来ることがあるだろうか? 余程、100ドルでもいいからキャッシュでほしかった。

イングリッシュ・ベイ
イングリッシュ・ベイ

「来年もGWはバンクーバーマラソンか・・・」と、思い出すのは昨夜のディナークルーズの席のこと。ツアーメンバー全員にあたるお楽しみ抽選として用意されていた景品のひとつが、来年のバンクーバーマラソンツアーご招待であった。今年は特に10周年記念ということもあって、例年、1人分のところが2名分に増やされていたこの無料招待枠、昨年の抽選(ジャンケン)をしとめて今年も参加していた女性が、何と2年連続で勝ち取ってしまった。なんたる強運。

世の中にはそういう運を持ち合わせた人がいるものなのだなと思ったけれど、さて、僕らのこのクーポン券も果たして幸運と呼べるものなのかどうか──。



 

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