選考基準

選手の思い

どんな世界でも選考に多かれ少なかれ紛糾は必ずある。過去のデフリンピックも今回も競技間、種目間でどれだけの選手枠が認められ、そして誰が選考されるのかの基準を明確に引くことは難しかろうし、遺恨の種を残してきた面もあろうと思う。選手にしてみると死活問題だが、なかなか言いにくい。

身近なところから語ってみるとマラソン勢4人。男子3人は熱狂的なマラソンブームの日本の中にあっても、市民ランナーとしては皆、充分な実力を有している。僕とKOUICHIROU君は2時間30分を切っている。MASAHITOさんも年齢別ランキングで2位等。前回メルボルン大会時から僕は2度、自己ベスト(かつ聴覚障害者記録)を塗り替えた。1年前に突如、台頭した若いKOUICHIROU君はさらに上回った。MASAHITOさんもベストに迫るタイムで復活を遂げた。直前1年だけでも3人は非常に高い記録を残している(それでも台北で出せる記録はあれが精一杯なくらいのレースコンディションということである)。

ゴール前
ゴール直前

一方、女子は家庭や仕事が忙しくケガも多く、で練習ができていなかった(境遇には同情できる)。それでも結果が如実に示すとおり、前回大会から1位も2位もともに30分遅れても2大会連続で同じ順位の金、銀メダルが取れるようにデフリンピックという舞台では女子の優先度が第一順位である。

男子3人の序列はどうだったか? 記録でいえばKOUICHIROU君が僕を49秒上回った。従来通りに男女各1名であれば彼だったか? 僕自身は実績からいっても客観的に見ても自分が選ばれるはずと自信を持っていた。これまで述べたようにマラソンは経験の比重が大きい。福岡、別大、洞爺湖と28、29、30分台の成績を残してきた僕と、まだ好記録が一本だけ(その後の3本がいずれも芳しくなかった)の彼とではかなりの差がある。マラソンのことを多少でも分かっている人間であれば、単純に一本の記録だけを見て決められないことは自明である。

そのことは彼自身もよく分かっていたようで、発表前の5月の合宿でも、選考されないことを考えて8月末の北海道マラソンに申し込むことを打ち明けていた(実際に走った)。誰か一人が選ばれるなら僕(金子)だと思った、というように、本人自身が一番よく分かっていた。そのあたりが謙虚というか、その素直さがあるから競技力も一気に伸びてきている所以と納得できるところでもある。

ただ、若さに賭けてみよう、将来に向けて経験を積ませようという考えもある。選手にとっては人生に一度あるかないかのことについて、4年間の苦労を重ねた実績でなく三ヶ月後さえ分からない将来性で決められてはかなわないのだが、そういう論理といわれれば仕方ない。ちなみに陸上選手の名簿では僕が男子選手中の最下位になっていた。種目順でも五十音順でも年齢順でもない、それが序列でないかもしれないにせよ、いい気はしなかった。ともあれ実際に一番、いい経験を積めたのがKOUICHIROU君で、僕がメルボルンの経験をその後に活かせたように、今後、大きく飛躍するだろう。地元で所属する有名なクラブ等の練習環境もいいし、何より一番、大切な性格が素直で人間性があるし、5千mやハーフの実力からしてもかなり高いレベルまでこの先、伸びるだろう。

MASAHITOさんは2大会ぶりの出場という珍しいケース。でもこれも、前回メルボルン大会で落選したことの方がおかしかった、それがあらためて証明されたということ。本来なら他競技選手に多かったように3大会連続のはずで何ら不思議はなかった。僕自身、メルボルンの現地で嘆いていたとおり、一勝すらできないでいる他競技に比べてもたった4人の選手という陸上枠の少なさ、マラソン枠だけで一国5人認められているのにレベルの高い日本マラソン勢が唯一人しか派遣されていない不条理さに対する憤りは強かったから。今回、仮に彼が落選することがあったら僕は直訴するつもりでいた。

そのあたりは本当に難しい。選手のレベルアップもさることながら、選考する側の眼力、見識も問われてくるし、さらには種目間、競技間の配分をどうするか・・・についてまで最終決定者が全てに通じることもあり得ないので、あとは選手とスタッフの側がお互いに信頼しあえる関係を築けるかだ。

メルボルン大会時にも触れた通り、ひとり個人の成績に終わらず、メダルや入賞は次の派遣枠に直結する。配分される強化費もそれで決まってくる。今回の陸上枠の増員もこれまでの大会で女子が獲得してきたメダル(と男子の入賞)、そして役員の尽力によるおかげが大きかったのだと思う。今回はやっと男子も結果で報えた。マラソンの場合、器具や特別な環境を必要としない、シューズさえあればどこでも一人で練習できる、お金をさほど必要としない種目なのだけれど、裏で奔走してくれている役員スタッフらの運営費用もあるし、今後のマラソン、陸上チームの活況につながってゆけばと思う。


 

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