マッターホルン三昧

大自然の彫刻美、マッターホルン

2日目(7/17)はまず、前日、ベッドで目が覚めたときに既に始まっていた朝焼けマッターホルンをきっちりと目に収めるべく早起きして出かける。今度は逆に気がせいて、そこまで早起きしなくて良かった、朝5時から待つこと1時間、で感動の瞬間に対面した。

昨日一日、マッターホルン三昧であったが、あらためて息の漏れる荘厳なシーンである。そして、どこから見ても、よくまあ、これほど尖っていることだと思う。のみとつちとで削って作り上げたよう。まさに大自然の彫刻美である。孤高の巨人、座したる巨人・・・、様々に評される厳粛で凛然とした姿。ちょっとユーモラスに見るなら、魔女の帽子・・・には見えないかな?

教会と朝焼けマッターホルン
朝焼けマッターホルンと教会の時計塔

日経新聞に連載される「私の履歴書」の先月の筆者はプロスキーヤーの三浦雄一郎氏だったが、エベレスト滑降の映画がアカデミー賞オスカーを受賞して、氏は「登山の歴史の三ページ目を開いた男だ」と評されたのだという。氏がパラシュートで滑り降りた冒険登山の始まりとしてメスナーや植村直己が続いた3ページ目、2ページ目がヒラリーとテンジンのエベレスト初登頂。(記事ではもちろん、この逆に記されているのだが)第1ページが英国の登山家エドワード・ウィンパーによるマッターホルン登頂。「あんな尖った岩山でも登れることを証明して近代登山の1ページ目が開かれた」のだという。

もちろんながら、多くの登山家、アルピニストが命を落としてきた歴史でもある。教会前の墓地には、マッターホルンで遭難した登山家達が眠っている。墓碑にはピッケルやザイルの付いたものも並ぶ。グリンデルワルトもツェルマットも、墓地はガーデニングさながら、区切られたスペースを競うように花で埋め尽くされて美しいが、命と引き換えの冒険の壮絶さは想像に難くない。

朝食前、ついでなので、ちょうど村内バスルートにもなっているマッターフィスパ川沿いを軽くジョギング。バーンホフ通りには、古い昔ながらのシャレー風ホテルが集まるのに対し、街の周囲には新しいホテル、別荘、豪華私邸が次々と建てられている、続々と建築中、であるのが分かる。駅北東(マッターホルンから離れる側)は、ホテルや飲食店、土産店とは一転、鄙びた穀物倉庫などの古い建物が集中している。

絶景の登山鉄道、ゴルナーグラート

ゴルナーグラート展望台へは、ツェルマット駅前のゴルナーグラート登山鉄道駅から約45分かけて向かう。

教会前の墓地
登山家らの眠る教会前の墓地friedhof

ちなみに、この翌日、毎週火曜日にはご来光ツアー(SUNRISE TOUR)というのも用意されていた。これも出発前から大いに心惹かれていた、ホテルの朝食を一日抜かすだけの価値は絶対にあり、というのは頭では分かっているのだが、結局、食欲に打ち勝てなかった。ホテルの朝食があまりに美味しいので。

sunrise - rothorn paradise

ツェルマットの街並みを見下ろしながら高度を上げてゆくと、マッターホルンが次第に目の高さに近付いてくる。ただ、先に昨日、マッターホルンが間近に迫るグレイシャー・パラダイスの方に行っていたから、驚きの感はもう、ない。ここは逆に、鉄道ゆえにロープウェーと違って右に左に大きく蛇行するから、マッターホルンだけでなく、アルプス第2の高峰モンテ・ローザ(4634m)がマッターホルンとは逆の進行方向左側に見えてくるなど、4000m級の山々が連なる美しさに息を呑む。

3089mの駅展望台に到着する。ここは鉄道でやって来れる分、昨日のグレイシャー・パラダイスの100倍以上の観光客が大勢、ひしめきあっている。マッターホルンをバックに、団体写真用ベンチが置かれている前には、犬も2匹、伏している。スイスのシンボルの一つ、救助犬のセントバーナードである。マッターホルンにセントバーナード犬、これ以上ない組み合わせに早速、写真を撮ろうとしたら、これもすかさず「ダメダメ!」と怒鳴られる。どうやら商売道具らしい。降り立った誰もが撮ろうとして、皆が皆、同じように叱責される。

4000m級の山々に囲まれて

犬らはおとなしく伏している、というより、息も絶え絶えにぐったりとしている。目が見えているのかどうかも怪しい。それでも仕事が入ると、勝手な主人の命令で必死に身を起こさないといけない。観光地の馬やロバのように、もはや動物としての命はないに等しい。かつてアルプスを越える旅人を遭難から救ったという名誉を持つ犬なのに、ここではその外見を人間に利用されているだけであった。見ていて哀れであった。

少し離れた別の場所でも、同じような商売が行われている。こちらの犬はまだ元気な方。日本のツアー団体が集合で、また順に二人ずつ撮られていたから、ツアー専用なのかと思っていたら、そうではなく、誰でも好きに撮ってもらえる。日本の国旗とスイスの国旗が用意されていて、99%日本人相手の商売のようであった。現像後の写真は、下山して駅横の土産店(ここも日本人向け)で見て気に入ったら買えばいい、というもの。日本人は格好のお客様として、いいようにカモにされているのだなあ(犬君ら以上に利用されている?)、と思いつつ、別ポーズで撮ってもらった2枚の両方を買ってしまう僕もまぎれなき日本人。

ゴルナーグラート展望台にて
セントバーナード犬と
ゴルナーグラート展望台にて

麓から見上げるマッターホルンはそびえ立つ険しさが何とも厳かで、威圧するような雰囲気があるのだが、昨日今日とこうして目の高さで間近に見ると、たとえは変だが、大仏様を近くで見るように、今度は少し、親近感がわいてくる。人間関係でも角が立つ、というけど、これ以上なく尖っているマッターホルンも遠くに見て近付き難く思える相手も本当はそうでないケースのように、これは人間と同じかな。

それにしてもよく尖っている。地球という惑星の歴史とともに、風雨風雪、雷、太陽光、紫外線に酸性雨・・・にも負けずに独り、尖り続けて来たわけだなあ、とその歴史にちょっと思いをはせてみる。

よく漫画では瞳の中がハートマークになったり星の形になったりするのだが、ツェルマットにやってきて、街から展望台から、ありとあらゆるところからマッターホルンを眺め続けていると、まさに瞳の中にマッターホルンが焼き付いて印影となる。


 

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