マネー事情

物価の高い国

海外旅行をしたとき他国の物価の安さに慣れている日本人からすると、「日本より高い」と驚くのが、有名なスイスの物価の高さ。目玉が出るほどではないが、例えばスーパーなら100円程度で買えるミネラル・ウォーター(500ml)が、キヨスクだと一気に300円になってしまう。

お金持ちが旅行し、暮らす国だろう。近頃かまびすしい格差論議の中で、裕福な人は日本を脱出して海外に移住するケースが増えている、といった新聞の特集記事などをよく目にするが、特にスイスはうってつけ。お金さえあればサービスは充実している。

最終日の夜の始まり

例えば昨年7月、東京国税局がハリー・ポッターの訳者松岡祐子氏に35億円の申告漏れを指摘した。本人はスイスに居住しているとの主張だが、松岡氏がそうしているのはスイスの方が節税になるからで、物価は多少高くても、税その他の暮らしやすさでは圧倒的にスイスの方がいいことを如実に示している。

国外での生活を選ぶことに他人がとやかくいえるものではないが、今現在の職業活動として「日本語」への翻訳活動で、「日本人(の圧倒的大多数は子ども)」から利益(所得)を得ているのだから、「日本」に還元してほしいね、というのが国民感情ではある。

国家の経済的な豊かさも

ちょっと話が逸れたが、物価は高い、ということ。「地球の歩き方」によると、観光立国としての人件費の高さや農業保護政策の他にも、アルプスの美しさと牧場の風景を守ってくれる農家を支持する思いがスイス国民にあるのだとか。

なお、スイスは今もEUに参加していない。

物価同様、国家の経済的な豊かさもスイスは有名。一人あたりの国民所得(2005年)は世界3位(日本は9位)。日本に暮らしていても、スイスの金融業は銀行や保険会社が生活レベルに入り込んでいるし、映画などを通じてもよく目にするように世界のリーダー的存在である。

最近のニュースから

観光立国というように、当然、観光産業もスイスを支えている大きな柱。

世界で最も旅行・観光業の発展に適した国はスイス――。
 世界経済フォーラムが3月1日に発表した、観光業の活性化に取り組む競争力ランキングによると、1位はスイス、日本は25位(調査対象の124か国・地域)。

(2007/03/02日経)

夜のバーンホフストリート

よくある「人気観光地」なのではなく、各国の観光政策や交通インフラ、観光資源などをまとめて指標化したという。

なるほどとうなずける結果。アルプスの山並みという、観光地それ自体が魅力的なのに加え、鉄道を中心とした交通インフラの充実度等、スイスという国の観光への取り組みの本気度、徹底度が肌で感じられた。

ちなみに日本が25位(124か国中)と意外に上位なのは、衛生環境や人材の教育水準など基礎的な条件での順位が高いから。「水と安全はタダ」というのは、今、多少の綻びはあろうけれど、まだ充分、世界の中ではトップクラスなのだろう。予想通り、空港網の整備などは110位と振るわない。

もうひとつ、毎日新聞で記者がコラムを綴る「発信箱」というコーナー。「県民所得の疲労感」と題して、

内閣府が発表した04年度の1人当たり県民所得は、額面通りに受け止めない方がいい

(2007/03/09毎日)

と述べている。県間格差、地域間格差の論点には適さないデータだとの警告を発している。それはその通りの事実なのだが、1位の東京でさえ、世界レベルでは下回るとしてスイスを例示しているところから、やや見当違いな点あり。

24時間稼働している大都市が、のどかなハイジの国を追い越せない。スイスの所得の大きさが、金融業で培われた厚みによるものとしても、「われわれは一体、何をやっているのだろうか」という深い疲労感に襲われてしまう。

「そうだなぁ」とうっかり、納得してしまいそうな例示である。でも、東京=「寝る間も惜しんで活動」と、スイス=「のどかなハイジの国」とするのもひどい暴論である。スイスをそう思い込んでいるのは、最初の映画「ハイジ」でも触れたように、日本人にアニメの影響が刷り込まれているから、だけではなかろうか。

スイスとて足を踏み入れた途端にアルプスの美しい山並みが広がるものでない(=ことに典型的日本人の僕が気付かされた)ことを鉄道編で述べた。

スイス国民が皆、ペーターやおじいさんのような暮らしをしている訳ではない。物語をよく思い出してみると分かるのだが、おじいさんは偏屈で町の暮らしに背を向けて山での生活を選んだ。ペーターも貧しいから学校に行ってなかった。そこにハイジが送られてきた──という展開であって、あの物語の世界自体がごく一部の桃源郷的な性質を持つものである(=だからクララに奇跡が起きた)。

のどかな大自然に囲まれているようで、スイスで1次産業に携わる人は、日本よりさらに少ないことをこの記者はご存じだったか? むしろスイスの場合、前者のニュースが示しているように、恵まれた自然環境を活かして産業化していることの巧みさ、美しい山並みを守るために金銭で代替できるものは観光客から吸い上げ、稼ぐべきはきっちり稼いで観光業の発展に尽くしている努力こそが称賛されるべきであろう。そういう資質があればこそ、世界トップの金融国家たりえているのではないだろうか。

ちょっとまた話が逸れたが、アルプスを誇りに思うスイス国民が多少高くても自国の農産物を消費するように、僕もマッターホルンにしろアイガーにしろ、山頂までのケーブル(交通)はそれ相当の料金だなと感じたが、それに見合う価値はあると納得できた。

今回、スイスに旅行しようとしたこと自体、結構、思い切っての行動。旅行記の題材のひとつとして、旅行に要した費用を詳らかにするのも興味ある人には大きな関心事であろうが、実は僕自身、はっきりと精算していない。航空券の支払いに始まって、カード払いが多く、金銭感覚の麻痺が加速していた。いくらカードで決済したのか、恐くて考えないことにした。一生で最後かもしれないし、と気持ちも大きくなって、まあでも、それだけのものは充分にあった。


 

  Related Entries


Message

メールアドレスが公開されることはありません。