スイスの料理

チーズ王国

スイスでは何より、アルプスの山並みの雄大さに息を呑み、ハイキングで山高い地の清涼な空気を胸一杯に吸い込んで全身がリフレッシュされる。それでもやはり、旅の愉しみは一にも二にも現地での食事。世界一長いというハイキングコースを持つスイスが、ハイキング王国たるのもエネルギーあってこそ。出かける前のホテルでの朝食、ハイキングコースには必ず、随所にある展望レストラン、下山して街に戻ると疲れを癒してくれるワインとディナー。

本日のデザート
本日のデザート

今回はリッチなグルメ旅行のつもりはなかったから、スイス料理を堪能できたというには程遠いが、概括するなら、料理はやや辛め、というところだったろうか。グリンデルワルトに到着した夜のことは既に書いたが、最初に訪れたレストランで、代表的なスイス料理、ラクレット(Raclette)*1を早速、注文してみる。溶かしたチーズをジャガイモにつけて食べるというものだが、あまりに辛すぎて、不味いというのは失礼かもしれないが、食べきれずに残して店を後にした。

*1
直火にあぶり、溶けた部分を削って食べたのが始まり。フランス語の「ラクレ(削る)」に由来。


ツェルマットで試したチーズフォンデュも同様。チーズを溶かした小さな鍋ごとテーブルに運ばれ、小さく切ったパンですくって食べる。鍋と簡易コンロごと出てくるのが、気取らない庶民的な暖かさを感じさせることから分かるように、美味、というより、まずは生活する上でのエネルギー源としてのメニューである。例えるなら、ご飯とみそ汁のように、ジャガイモやパンの糖質に、腹持ちのするチーズの組み合わせ。

ラクレットにしろ、チーズフォンデュにしろ、スイスは山岳地、牧草地だけにチーズには事欠かない。ホテルの朝食はグリンデルワルト、ツェルマットともにビュッフェ形式で、チーズも多品種が盛りだくさん。写真を撮っておけばよかったが、あれはチーズボードかチーズテーブルとでもいうのかな、形や色の違う色んなチーズが丸いボードの上に並んでいるのは見た目にもきれい。好きなだけナイフで切って食べられる。

濃厚なチーズだけに、それ自体が少量でも腹を満たしてくれるところ、ホテルの朝食がとにかく美味しくて、遠慮せずにふんだんに食べるから、ハイキング中の展望レストランの料理もとても美味しそうなのだが、ビールかアイスクリームか、ごく簡単なものというパターンで通すこととなった。

アルプスの真珠

スイスはワイン作りも盛んだが、小さな国土で生産量も少ないから、日本にまで輸出されるほどのものではない。その分、現地でしか飲めない稀少性がある。僕自身はワイン通とは程遠く、ビールで充分、という方なのだが、せっかくなのでディナー時にはいくつか試してみた。

アルプスの真珠
アルプスの真珠

ツェルマット滞在中、利用したホテルはそう大きくないのに、ダイニング(レストラン)が立派で、最初に通されたとき、それだけで感動した。3泊中、一晩だけはバーンホフ通りに繰り出して飲んだが、3日3食、ここで全て食べたいと思えるほどに、マッターホルンを眺めながらの爽快さの中で充分な味わいで満足できた。

そのホテルでの最初の夕食のこと。ちょっと品のあるレストランでかしこまっての食事が慣れているほど、僕はアッパークラスではない。メニューを選ぶのも緊張する。海外旅行に出かけると、大体がそうだが、食事のメニューほど訳の分からない英単語が並んでいるものはない。おまけにスイスは第一義的にはドイツ語圏であるから、特に料理の単語はちんぷんかんぷんなところがある。

料理の方は「本日のコース」があったから難を免れたが、20種類以上はあるワインリストを見せられても選択のしようがない。それでも適当に注文したら、大当たり。

行きがけの機内でJALの機内誌7月号がスイスを特集していることは前回、触れた。「チーズ王国の静かなる饒舌の味」(*2)と題して書かれた紀行文中にも登場するし、ガイドブックにも取り上げられていたワイン。見ている、読んでいるようで僕は全く頭にあったわけではなかったのだが、妻が覚えていて「さすがね」と感心してくれた。

その名も『ハイダ』。ツェルマット周辺の世界最高所にあるブドウ畑からつくられた、わずかな生産量のここ地元でしか飲めないものらしい。"アルプスの真珠"とよばれるという白ワイン、事実、飲み口が非常にさわやかでおいしかった。

実は「適当に選んだ」うちにも理由はあって、このワインが一番、スペルが短かったからである(=Heida)。ハイジ(Heidi)にも一字違いの、日本語で「あ(a)」と「い(i)」の近似性。これなら読めるし、言いやすかったから、という訳。ラベルを集める趣味はないが、もらって帰れば良かったな。

一般的に有名なのは、同じヴァリス州の「フェンダント(Fendant)」。チューリヒ空港の免税店では、他のワインが有り余っているのに、フェンダントの棚だけごっそりとなくなっていた。

グラスには目盛り
グラスにも目盛り

その他、時計同様にチョコレートが有名。ミネラルウォーターにはガス(炭酸)が入っているのが普通。レストランでも軽食店でも、決められた容量をきっちり守るべく、ビールのグラスにまで目盛りが付いているのは節約国家ならでは。


*2
チーズは人類がつくったもっとも古い食品だといわれている。いつどのように発見されたのかはわからないものの、数千年以上も前からチーズは人類とともにあった。国土のほとんどが山地であるスイスで古くから牧草地でチーズがつくられてきた。小さな国土にもかかわらずチーズ王国とよばれているのは、気候風土に加えてチーズ作りの伝統・文化を守ってきた気質があるからだ。チーズの味は寡黙であり饒舌だといわれる。


「チーズ王国の静かなる饒舌の味」(SKYWARD July 2006)


 

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