ハイジ

アニメから32年、21世紀版映画が英国製で

映画ハイジ
ハイジ

アニメ「アルプスの少女ハイジ」が最初にテレビ放映されたのは1974年。僕が7歳(小2)の時。今、思うと何ともいいタイミングで放映されていたのだな、ということが分かる。もう2、3年遅れていたら「女の子向けで、幼児っぽい」とそっぽを向いていたかもしれない(といいつつ、2年後の1976年(小4)は「キャンディ・キャンディ」に夢中であった)。子どもっぽいなどとはつゆ思わず、毎週日曜夜7時半を心待ちにできたのは幸運である。

アニメ版ハイジは、その後、再放送を繰り返して今に至っている。日本で原作は知らなくても、ストーリーとキャラクターを知らない人はいないだろうくらいに広まった。「ドラえもん」同様、きっと将来もずっと放映され続けるアニメだろう。日本人のスイス好きもアニメ「ハイジ」によるところが大きいはずである。

日本のアニメは世界に誇れる文化である。「ハイジ」も世界各国で放映されていよう。普及しすぎて、例えば、他国(韓国)では、「ハイジ」が日本のアニメだとは知られていない、「そんなはずはない」と頑なに拒否されるほどだという。確かに、それぞれの国の吹き替えで見れば、そこに「日本性(製)」を見いだすことはできない(唯一、見いだすことができるとすれば、ハイジが黒髪なことか?)。原作同様、スイス(か、せめて欧州のどこか)で生まれたと思うのが自然である。時代と国境を越えて世界中に愛され続ける映像。「素晴らしきかな、高畑&宮崎アニメ」の一言に尽きる。

原作あってこそ

僕はヨハンナ・シュピリの原作(1880年)を読んだことはないが、アニメもストーリーは原作に大きく逸れることはないのだろう。映画を観てそう確信できた。アニメしか知らない身でも、全くそのとおりの忠実なストーリーに安心して観ることのできる映画であった。ハイジもペーターも、おじいさんもクララも、ロッテンマイヤー夫人もセバスチャンも。みんな、アニメのキャラクターそのものであった。

今、僕はもうアニメに感動するだけの純な心は失ってしまっている。さすがに今の僕はスイスに行く(行った)からといって、アニメで「アルプスの少女ハイジ」を見ようという気にはなれない。「もののけ」やTV初放映で今年の最高視聴率を記録したという「ハウル──」といった大人も楽しめるアニメにも心惹かれない。それでも映画なら見れるところが映画の良さである。

映画には表情がある。仕草やちょっとした感情の揺れといった、心の陰影をはっきりと見てとることができる。今度のスイス旅行は抜きにしても、非常にいい映画だった。ストーリーが分かっていてこんなに満足させられる映画も面白い。分かっていても、ここぞのシーンの都度、胸が詰まる。

アルプスの花
アルプスの花

一方で、アニメでも映画でもその素晴らしさに触れて、充分ではあるけれど、やはり、原作を読むのが一番であろうな、という思いを映画を観ながら強くさせられた。アニメを知っているから映画にも重ねてしまう。今回の映画は、アニメのキャラクターがそのままで、全く裏切られることのない内容であったが、いうまでもなく、原作は子ども向けの児童書であるから、登場人物を自由に空想に描けるよう、映像で先入観を植え付けられる以前のまっさらな状態で「読む」のがいいんじゃないか。原作を読む子ども達のそれぞれに、違ったハイジ像があった方がいい。クララが「山ってどんなところ?」といったように、当たり前と思えることでも想像力の拡がった方がいい。アニメ版「ハイジ」の素晴らしさはいうまでもないが、原作よりはるかに一般的になりすぎてしまったのは残念かもしれない。アニメより先に原作を読めた人は幸せであろう。

映画を観たのは1年ぶりのこと。このところ久しく劇場に足が向かなかったのも、映画の固定的で強烈なメッセージ性より、自分の自由にイマジネーションを拡げられる読書の方に回帰していたからでもある。この映画の中でも、ペーターもハイジも読み書きできなかった、「字なんて覚えてどうする?」という考えであったのが、言葉を学び、本を読むようになってゆく。これも映画の立場からでさえ、「まず字(原作)あってこそ」という原作への尊敬が現れているといえるだろう。

かつて「女の子」だった女性に

スイスでも土産物にハイジは描かれている。本屋でないところにも原作が置かれていた。僕も手に取ってみたのだが、何分、ドイツ語である(スイスの言語事情は後日、別記)。英語版や絵本版もあったけれど、見栄でも買っておけば良かったとちょっと、後悔している。

「小公女」や「足ながおじさん」同様、「ハイジ」も、それと決まっている訳ではないが、どちらかといえば「女の子」向けの物語。映画を観ながらも、「ああ、この映画はかつて「女の子」だった女性が観る映画、それに向けられた映画だな」と感じられていた。日本ではちょうど、最初の放映を見たかつての女の子が、当時の自分と同じ年頃の母親になっている頃でもある。母娘をターゲットにして夏休みに公開された面もあろう。

とはいえ、決して男性が楽しめない映画でもなく、おじいさんやセバスチャンやクララのパパや・・・と男性のモデルもしっかりしている。かつての「男の子」がペーターに自分を重ねたように、誰もがかつてハイジに我が身を重ねた(あるいは中には良家のお嬢様、クララに)、それぞれアニメの中に投影した女性が、悲しいかな、もしかすると今ではデーテ叔母さんやロッテンマイヤー夫人になりかけてしまっているかもしれない・・・。そうした女性に、もう一度、あの夢中になっていた少女時代を思い出し、ハイジのように純粋でまっすぐな心を取り戻せる映画、といえそうである。

満足度:★★★★
2005年イギリス作品
2006/07/25 恵比寿ガーデンプレイスにて鑑賞

東京の先に出かけることがあったので、運良く観ることのできた映画。電車の中で思い立って、急きょ途中下車して、ピタリと開演に間に合った(最近、ギリギリで間に合うことになぜか自信がある)。来月からは全国でも順次、ロードショー。

映画ハイジ

映画の中のアルプスの山並みに「そうそう、スイスはこんな・・・」といいたいけれど、実は撮影はスロベニアでされたという。スイスを説明するとき、「広さは九州とほぼ同じ」というように、スロベニアは四国にほぼ同じ大きさ(覚えやすいね)。旧ユーゴスラビアから独立した、スイスの隣の隣の国。でも、窓から見えるお山や、花と山と緑とに囲まれたシーンの随所に、スイスらしさを味わうことができる。


クライネ・シャイデックから望むユングフラウ
クライネ・シャイデックから望むユングフラウ

 

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