日欧にみる象徴としての獅子、ライオン

ライオンヘッド

前回、食のコミュニケーション で画像にした白ソーセージはここランツベルクで昼食を取ったときのもの。ミュンヘン名物でありながら、旅の最終日まで朝食はホテルの極めて普通なバイキング、昼食も訪問先での軽食(な上にミュンヘンから離れるのでそもそもメニューにあるのかどうか不明)だった。夜、ミュンヘンに戻ってのビアハウスで目にしようと思えばできたのかもしれないが、「白ソーセージに正午の鐘を聞かせるな」といわれるくらい、本来は日持ちのしないもので、朝作って午前中に食べきるのが習慣の伝統食。

ミュンヘン名物の白ソーセージ Weißwurst
白ソーセージに正午の鐘を聞かせるな

ミュンヘンでついぞお会いできなかった白ソーセージに、ランツベルクでちょっと立ち寄った店で、構えずさりげなく出てきたのが嬉しかった。ソーセージの浮かぶ(沈む?)白い器も両端がライオンの顔のやつで、プレッツェル+ビールも当然に、としっかり伝統を踏まえた並びの、おまけに場所のおかげでか良心的すぎる料金で感動のご対面だった。

この白い器、何というのかと探したら、見たそのものに「ライオンヘッド・スープボウル」。何だ・・・、という気もするが、ちゃんと名前が与えられていると安心。

料理を引き立たせる白い器の、シンプルな中にもユニークなデザイン、遊び心をうまくマッチングさせているのが向こうの国のセンスというか。あるようでいてない意匠。

獅子公ハインリッヒ

ライオンといえば、12世紀、獅子公ハインリッヒが塩の輸送路としてレヒ川沿いに橋を架け、城塞を築いたことがランツベルクの町の歴史の源。ハインリッヒはミュンヘン、リューベックらの町を興し、都市に発展させた中世ドイツの、時代に抜きんでて有能な君主であった。

レヒ川の「外」にあるランツベルク駅から町に入る時に渡る橋がKarolinen Brücke で、橋のたもとに半裸男性の鎮座している像がある。町のリーフレットによると「Father Lech on the Karolinen Bridge」とはあるが、それ以上の説明はない。

Father Lech on the Karolinen Bridge
Father Lech on the Karolinen Bridge

橋を架けて町を興したのが獅子公なら「Father Lech」というこの像はハインリヒなのだろうとも思えるのだが、どうなのだろう。あるいは特定の人物ではなく単なる象徴としての偶像なのかもしれない。気になるなあ、と思いつつ、随分な時間をかけて英・独のサイト上も探してみたが、このモニュメントが1952年に建造されたらしいことは分かっても、誰を表す人物像なのかは不明。謎なところがまた小さな町のランツベルクの魅力。

いわずとしれたヨーロッパ、中欧の地は非常な獅子(ライオン)好き。ローテンブルクの看板も各地の州旗もライオンを描いた図柄が多い。多くは優雅に横たわる姿でなく、後ろ足2足で勇敢に立ち上がっている、百獣の王が見方によってはちょっと微笑ましい姿にされているが、それも人々に親しまれているからこそだろう。

同名君主が多く、あだ名の付けられることが多かった時代、ライオンの呼称を与えられたハインリッヒはその勇猛さと才能にふさわしい非常に名誉な敬称だったのだろう。

日欧に見る獅子、ライオン像

食器、看板、州旗に敬称・・・生活の隅々にライオンの入り込んでいる欧州。一方で日本におけるライオンはというと、ちょうど先月末の日経「美の美」が日本人にとってのライオン、日本画の中の獅子、というテーマを取り上げていた。ライオンの実物を見ることの無かった、知らなかった日本人だが、古くから神社仏閣、芸能の中で、日本画の上では写実上のライオンにはかけ離れるが、イメージ上の「獅子」として様々な姿を描いてきた。

Father Lech on the Karolinen Bridge
美しいスタッコに飾られた市庁舎 Rathaus とマリア噴水Marienbrunnen

日本人にとって「獅子」はライオンと同義とはいえないものを有している。江戸以前の日本人にとって「獅子」とは想像上の動物に近かった。獅子舞や神社に据えられる像のように、神聖なイメージを与えられ、霊獣と化した生きもの、時に崇拝の対象となる心の中の動物であった。神聖さが親しまれていたからこそ繰り返し描かれ、多くの名画を生み出してきた。

そういう意味では「ライオン王」を単純に「獅子王」と訳すのは貴重な「獅子」という日本語の濫用のようにも思えてくる。また同時に、日欧ともに(あるいは世界中で)獅子やライオンが、形は違えど神に近い動物として敬われてきた、という共通性も面白い。

中世ドイツの都市を建設した立役者、獅子公ハインリッヒと、バイエルン地方の名物白ソーセージを入れるライオン・ヘッドボウルと、由来がつながっているわけではないが、これもまた旅の脱線、途中下車。興を引かれて、このランツベルクも3度に分けてのページとなった。


 

  Related Entries


Message

メールアドレスが公開されることはありません。