香港ビルヂング事情 2

廃墟のようなビル

尖沙咀(チムサーチョイ)
尖沙咀(チムサーチョイ)~正面奥のホテルに対して隣接の右側ビルや道路向かいの左側ビルの古さが際だつ

外観が薄汚れて汚いだけでない。高温多湿の香港にあって、ほとんどの部屋の窓が開いているのに驚く。よく見ると、そうした古いビルは十数階以上の高層ビルといっても、窓がサッシではなく木枠で作られているのにさらに驚く。また、これもきれいとは見えない洗濯物が決まって外側にぶら下がっている。形を整えて「干している」のではなく、まさに放り出すような感じである。窓が開いているのは、つまり、部屋にエアコンがないということである。僕が見た限り、そして、これは香港全土にいえるのだと思うけれど、こうした古くて汚い"ボロ"ビルの方が香港には多い。

部屋にエアコンを取り付けられない貧困層が多い、貧富の差の激しい地が香港であった。

いつか崩れ落ちそう

推測になるが、エアコンがないのは貧しさの理由もあろうが、加えて、付けたくても付けられない建物の構造的事情があるのではないか。何しろ、ビル自体が非常に古い。日本ではまず見かけることがないくらいの古さである。あるいは、外観が汚くて古く見えるだけで、実際の建物年齢はそう古くはないのかもしれない。そう考えるのは、「香港では地震がない」というからだ。世界一の地震国、日本と比べれば、求められる建築強度も低くて済むに違いない。ならば、いわゆる建築基準というやつが香港と日本とで違ってこようし、基準が緩く簡単に建てられる分、必然的に建物の劣化も早くなろう。先に、窓が木枠であると述べたが、木造建築の感覚で高層ビルを建てているように見えるのも、そう考えると説明がつくように思う。

ベランダやバルコニーなどもちろんないビルには、エアコンの室外機も据え付けられないだろうし、ちょっと外壁に付けて耐えうる強度があるようにも思えない。

そうした外観の汚さは不快感を覚えるというより、この先、いつまで建っていられるのだろうかと心配したくなる気持ちの方が大きい。本当にいつ壊れ落ちても不思議はない気がして、見ていて非常に怖い。ここまで隙間なく密集していると、取り壊すにも取り壊せないだろうと思えてくる。砂上の楼閣よろしく、そのうち自然に崩れ落ちるのを待つだけ、といった感じである。それでも住民は平然としていて、これは洗濯物の干され方もそうだったが、崩れたらそれまでよ、といわんばかりの、半ば投げやりに近いあきらめが感じられるようであった。

建築現場の足場は竹

竹に落書き
竹に落書き(彫るのが粋)

新しくビルを建築するときの、また、外壁を修復するときの足場が竹で組まれているのにも驚く。本当に45階まで竹を接いでいる。竹ならば安く組み立てられる、運搬も容易だから、というが、人命を左右する足場が竹だなんて、至る所で実際に目にしても、信じられない。現地ガイドによると、よく人が落ちてくるそうだ。それでも、香港では「安全第一」ならぬ、「現金第一」でエアコンを目指すならば、危険を賭して働かざるを得ないという人々が多いということだろうか。蒲田行進曲のヤスみたいである。

けれど貧しさが不幸せではなく

今日(7月10日)の新聞に面白い記事を見た。欧米の金融機関が中国やロシア、中・東欧など新興市場国の個人マネー獲得に動き出したという内容だが、富裕者数の伸びを示したグラフが興味深い。金融資産100万ドル以上保有者、分かりやすくいうと、日本円で1億円超の資産を持つ富裕者が、昨年1年間でどれだけ増えたかの割合を比べているのだが、世界全体が5%超平均なのに対し、香港は30%でダントツの1位となっている。

一方で、これも帰国後に見た新聞記事──。アメリカの金融サービス会社がまとめた、貯蓄や年金等に関する12カ国、地域対象の「金融幸福度」調査なるもの。「老後資金が十分」という項目で、日本人は3%(12位最低)であるのに対し、香港は20%(8位)。どう見ても香港の方が大多数の人々は貧しいのに、それでも老後は大丈夫と思っている。土地が狭く、住環境が決して良くない(家賃がべらぼうに高い)分、家族が揃って生活しているケースが多いときいた。若い人に加えて高齢者の一人暮らしが年々増加している日本と違って、香港では家族の結び付きが強い分、お金は少しあれば大丈夫、という考えなのだろうか。

また、「自分が働く企業を信頼できる」は日本36%、香港71%(1位)。貧富の差は自覚しつつも、勤めている組織への忠誠度は極めて高い。確かに、香港の人々は貧しくても、それで不満に感じているというようには見えなかった。「この辺りの地区の人々は脚が細い。エレベーターのないマンション(アパート)に住んでいる人々だから」とは現地ガイドの説明。確かに、人々はエアコンもなくても、一生懸命働いているような感じに見受けられた。生き方が純ということか。


 

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