旅行中のコミュニケーション

マラソンツアー

レースの感慨をひととおり書き記したところで、今回は旅行中のコミュニケーションがどうだったか、聴覚障害を有する僕らの何よりの関心について。

ボストン、ニューヨークシティ、ホノルル・・・等の大きな海外マラソンでは国内外の旅行会社がツアーを組んでいる。今回は、このツアーに申し込んで参加した。以前にも述べたけれど、中高年齢走のマラソン人気、健康志向を取り込むように、また、日本人プロ野球選手やサッカーのJリーガー選手が世界各地で活躍するようになってから観戦ツアーが組まれたりするなど、旅行会社もスポーツ分野に力を入れているという。

当然ながら経験のある旅行会社の組むツアーゆえに、エントリーに始まってレース前の受付、コースの下見、スタート地点への移動、当日朝の日本食(おにぎり弁当)まで、あらゆる手配ができていて便利である。これらを全て一人でやろうと思ったらかなりしんどいことを覚悟しないといけない。資料(案内、申込書)を取り寄せ、参加資格証(年齢層によって保持記録の制限時間あり)を添えて申し込む。参加料を振り込む。

世界各地から1万人を超える出場者のあるレースの開催日に航空券と宿を手配しようと思ったら、相当早くに準備しないと。現地に到着してホテルに行くのも、ナンバーカードと参加賞を引き換える現地での前日エントリー(受付)会場に行くのも、当日朝、スタート地点に行くのも、全て自分で判断することとなる。

今はインターネットのサイトで情報収集できるし、そこからカード決済もできる、eメールで問い合わせもできるとはいっても、考えるだけで42.195kmを走ることより数倍疲れそうである。ネットの普及してなかった時代にきこえぬ者がトライできたろうとは考えにくい。この意味でインターネットのもたらした可能性はきこえぬ僕達にとって、とてつもなく大きい。

ホテル内プレスセンター
ホテル内プレスセンター

ともあれ、全てを自分で企画する楽しみもある一方で、やはり旅行会社というプロに任せた方が手早い。何より安心できる。そして、トータルの料金もずっと安い。今後は是非、個人でも申し込んでみてやろうと思っているのだが、ツアーで参加する一番の利点はやはり宿泊ホテルである。 “フェアモント・コープリープラザホテル”という、世界の主要都市をカバーする立派なホテルだった。ゴール(コープリー地区)地点の目の前に立つホテルで、ここがプレスセンター、つまり、本部主催者らにとっての詰め所であり、マスコミへの情報提供拠点になっている。ゴール後の汗も乾かぬうちに、歩いて自分の部屋に戻り、シャワーを浴びることができるという立地にある。

余談だが、実際、僕が部屋に戻るべくホテルのロビーを横切ろうとすると、上位の表彰されるべき選手らがまだ着替えて戻ってきていなかったためでもあろう、招待選手に間違えられたようで、レース後に果物等の食事の用意された部屋に案内されてしまった・・・(もちろん、しっかり食べた)。そんな具合にこれ以上ない恵まれた場所のホテルだった。

きこえない身で

こうしたホテルを大会期間中に押さえられるのは長年の実績ある旅行業者でなければ無理なのだろうと思うが、それはさておき、「耳のきこえない」ことを明記した申込書にどう、業者は反応したか?

まずFAXで問い合わせてみたら、案の定、「ご家族(介護者)の方とご一緒の参加にされてはどうでしょうか? 特に聴覚障害者だけへの情報保障には対応していないので、場合によっては参加をおことわりさせていただくこともあります」と返信されてきた。ある程度、予想はしていたことなのでやはり駄目なのかなあ、と思うと同時に、でも、もちろん、業者のこの対応は当然といえば当然のことである。

僕としても参加を認められないことを非合理と思って憤慨するでもなく、差別じゃないかと声高に叫ぶつもりもない。落ち込むわけでもない。例えば、障害を理由に搭乗が認められない、あるいはホテルへの宿泊を拒否されるという場合には別の次元から別のサポートを伴った方策が採れるようあらためられるべき問題であるけれど、旅行会社の企画するツアーにおいて一人の「きこえない人間」へのフォローまで求めることはできない(*)。

僕の目的は、憧れのボストン・マラソンを走れさえすればよい。ただ、それだけなのだから、とにかく連れて行ってもらえるように嘆願するのみ。その後、何度かやりとりした都度、きちんとFAXで回答してもらえただけでも誠意ある対応を示していただけた。

*従前より手話通訳者を伴った聴覚障害者向けのツアーに力を入れている旅行会社もあり、また、近年は他の大手会社でもその傾向が広がってきている。

「そもそも、きこえないことの不利は承知して生きていますから、仮に落ち度があっても自分で責任をとります。きこえないこと以外は特に問題ないので、旅行中はツアー参加者らの行動にはぐれぬよう、自分でよく注意して、また、大切なことは自分から聞くようにします」

ゴール地点
ゴール地点

・・・と、普段の自分は全然そうでもないのだけれど、念書のように書き送って請願し、なんとか認めてもらった。それと、1人部屋になると料金のアップが非常に大きくなるのだが、これは、ありがたいことに、ちょうど同年齢の方がきこえないことを承知で同室になってもらえた。


 

  Related Entries


Message

メールアドレスが公開されることはありません。