はじめに

憧れのレースへ

4月半ばの6日間、アメリカ・マサチューセッツ州のボストンに出かけてきた。 ボストンといえばおそらく分かってくれるだろう、"ボストン・マラソン"に出場してきた。

"IT ALL STARTS HERE~全てはここから始まる~"
ボストンマラソンスタート地点・ホプキントンにて

走ることの何より好きな僕は、いつか海外レースに出場したいとずっと思い続けていた。ここ数年は活動の方にかなりの時間を費やしたこともあり、大会出場の方はかなり我慢せざるを得なかった。それでなくてもアウトドアーな自分にとって、走りたい気持ちのままならないストレスをずっと抱え込んでいた。

活動も大切な一方で、自分らしさが抑圧され続けるのもあまり身体に良くはない。例えば、家庭や地域を顧みずにひたすら仕事に打ち込む会社人間がそうであるように、僕も、今の自分を支え、形づくってくれた大切なものから遠く引き離され、自分という人間性が次第に失われているような気がして少しやりきれなかった。

昨年はその反動もあり、これまでたまっていたマグマを噴き出すかのように、いつか出ようと思っていながら長い間果たせずにいた、国内の各種の大会に念願の出場を果たせた。フルマラソンだけでも9月の玉造、12月の防府読売、2月の別大、と名誉な大会に続けて初出場することができた。年齢的には遅いデビューであったけれど、自分としては、それなりに十分な好結果に気をよくすることもできた。調子に乗って3月の篠山(兵庫県)も走った。

ちょっと調子に乗り過ぎであるけれど、勢いのあるうちに、調子に乗っていられるうちに海外のレースも経験しておきたいと思った。仕事は計4日、休みをとれば何とかなる。年度初めという時期が気にかかったけれど、今回は異動もないだろうし、仕事の方はいざとなればGWに出勤して埋め合わせることもできる。体調も万全には程遠い、疲れも蓄積しているけれど、結果が求められる一流選手なわけではない。比べるのもおこがましいが、イチローや新庄のメジャー挑戦にも刺激され、半分やけくその思いで(こういうのは、思い切りが必要だ)、期限間際にすべり込むように申し込んだ。

ホノルルでもNYでもロンドンでもなく、ボストン

数ある海外レースのうちからなぜ、ボストンを選んだか?

走ることにそう興味のない人でも、日本人なら海外レースといえばホノルル・マラソンを思いつくだろう。日本からも行きやすいし、大会自体がアットホームで好評という。僕も、誰か経験の浅い人と一緒に楽しみで行くならホノルルでもいい。

また、この頃は海外レースも行きやすく、アメリカでは近いところでロスもあれば、郷ひろみお気に入りのニューヨーク・シティーマラソンもある。同じ4月に開催される大会では、パリ、ロンドンマラソンもあるし、山口からなら大阪よりも近くて手軽に行くことのできる、お隣の韓国・慶州桜マラソンもあった。けれども、どうせ出場するなら、そして、初めての場として選ぶなら、僕の心の中にはもう、絶対ボストンしかなかった。

今や、走る作家として有名過ぎるほどの村上春樹がこう述べている──

4月がやってくると、これはもう、なんといってもボストン・マラソンである。僕の場合でいうと、だいたい12月の声を聞く頃からボストン・マラソンへの準備は始まる。この頃からだんだん、まるで大事なデートの前日の午後みたいに、そわそわとして何となく落ち着かなくなってくる。

・・・(中略) ・・・

走りながらなんとなく胸がじんと熱くなる。ぼくはこれまでにいろんな場所で色んなレースを走ってきたけれど、町全体がこれくらい一体になってランナーを盛り上げてくれるレースは他にちょっとないだろう。ニューヨークもホノルルももちろん楽しい立派な大会だけれど、ボストンにはそれとはまたひとつ違う something else がある。


氏の他の作品中でも随所にボストン・マラソンが触れられている。春樹教信者の一人として氏を敬愛してやまない僕としては、必然的にボストンしか眼中になかった。

ボストンに行くことを決めてから、春樹氏のような4ヶ月前からの準備はできなくても、できれば僕なりに心の準備をしてから行きたいと思った。でも、その余裕はなかった。仕事やその他で全く落ち着けなかった。それでも時間の合間をぬって、彼のエッセイにあらわれてくるボストンの描写を再読・熟読して気持ちを高めて臨もうとした。

そして、無事走り終え、帰国して10日経つ今もまだ、興奮冷めやらぬ心境が続いている。まさに、遠くからずっと思い続けていたけれど打ち明けることができずにいた、憧れのあの子に思い切ってデートを申し込んでみたら、快く受け入れてくれた。そして、思っていたとおりの素晴らしい相手で、心ゆくまで満足できる時間を過ごすことができた。長い間、心に秘めていた夢がかなった感無量の心地と余韻が消えずに続いている。

ボストンマラソン・エントリー証
ボストンマラソン・エントリー証

42.195kmという距離を走り抜ける時間を楽しめたのはもちろん、マラソンだけでなく、前後一週間、旅行そのものが感動の連続だった。短い滞在ではあったけれど、海外ならではの新鮮な発見や予期せぬ出来事への驚きも当然多い。それらの数々を思い出しながら、何度かに分けて投稿してみたいと思う。


 

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