「がんぜき」と「てみ」と広辞苑

古くてあたたかみのある言葉

つい昨日のエントリ(*)の余談で触れた件(コメントも参照にしてください)。

* 国を憂いて わび住みし/迷える子羊のつぶやき


面白かったので追求(=これもブログを持つメリット)。

「がんぜき」というのはどうも山口でしか通用しない。標準語では「熊手」らしい。山口の人間は「熊手」というと潮干狩り(=瀬戸内海で昔はたくさんできました)用の小さいヤツと思っている。

併せて思い出したのが、「がんぜき」と対になる「てみ」。

「がんぜき」はまだネット上にもちらほら出てくるけど、「てみ」は全く・・・といっていいくらいに挙がらない言葉。もちろん Yahoo! 辞書にもない。僕の人生の中でも危うく死語になりかけていたけれど、大切な古き良き言葉と思う。

いずれも作業具、農業用具で秋冬に出番が多い。何かほんわかとしたあたたかみのあることばだよ。

各辞書の掲載状況

この用語の普遍性を辞書で調べてみた──。

【楽天ブックスならいつでも送料無料】【【高額商品】【3倍】】新明解国語辞典第7版 [ 山田忠雄...

まず机上サイズの普及版。

「新明解国語辞典・第五版」金田一京助編
 (最新は第六版)。いずれも掲載無し。


続いて大型国語辞典。

「大辞林・第二版」松村明編
 (最新は第三版)。ここでも、いずれも掲載無し!


辞書のスタンダード。

「広辞苑・第三版」新村出編
 (最新は第五版)。それでも、いずれも掲載無し!

「広辞苑」は今度、10年ぶり改訂の第六版が来年1月に発売されるというニュースになったばかり。「ニート・イケメン・うざい」という新語は入るらしいけど、「がんぜき」に「てみ」は絶対、入らないね・・・。

最後の砦は日本の誇る最大の国語辞典

そこで、とどめに引っ張り出したのが

40年以上の年月と3000人を超える専門家の協力を得て完成した日本が誇る最大の国語辞典

日本国語大辞典
「日本国語大辞典・第二版」
 この辞書の素晴らしさは、各地の方言や過去の文学の中での使用例が実に事細かにすくい上げられていること。その数、項目50万・用例100万。

さすがに期待通り、ここでやっと登場! 以下、全文。

がんぜき
(名)落葉などをかきよせるために用いる竹製の用具。熊手(くまで)。*和訓栞(1777-1862)「四国にては熊手をがんぜきといへり」

(「*」は用例。ちなみに『和訓栞』は日本初の五十音順に配列された国語辞典)

てみ【手箕】
(名)方言 (1)穀物のもみ殻をあおってくずを取り除くための道具。箕(み)。香川県 (2)ものを入れて運ぶ箕(み)の形をした小さな竹ざる。熊本県球磨郡 (3)土などをすくう竹ざる。徳島県 愛媛県 (4) 竹で編んだちり取り。島根県

というわけで、「日本国語大辞典」によると「がんぜき」も「てみ」も四国でよく使われているのかな? 「てみ」は、島根県とされた(4)がやはり、隣り合う山口県の感覚にも近いね。

小さな村からも意義ある情報発信

もちろん、文章よりも画像があると一発で理解してもらえるんだけれどね。今度、実家に帰ったら「てみ」がまだあるかどうか見てみよう(祖母宅には絶対、ありそう)。

唯一、見つけたのがこのページ。

生活道具・農具わく/相良北小学校郷土資料室

この小学校も、日本国語大辞典そのとおりに! 熊本県球磨郡の学校さん。日本国語大辞典の、熊本だけ「郡」まで絞り込んでいるところがさすがだし、相良村という学校のこのページも素晴らしい! 拍手!!

常々思う、ネットの大きな利点は、ニッチでマイナーな、どこにも出てこない解説にたどりつける可能性のあること。この小学校のページは日本国語大辞典に匹敵する価値あるコンテンツだと思うよ。何より子ども達が調べているのがいいね。

「がんぜき」に「てみ」。いずれこのページも少しお役に立てることを楽しみに期待してます(^^)V。(ちょっと社会に貢献できそうな気分・・・)。


追記
「てみ」について続編あり
民具が語る先人の知恵



 

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 comment
  1. yamaguchi より:

    がんせきは聞いたことあるような気がするのですが、てみは初耳です。
    山口弁とは関係ないけど、学生の時に全国地区に面白い地名がないかと色々調べたことあります(^-^)
    その中に、長門市(元は油谷)にある「向津具(むかつく)」という地名があって、向津具小学校&中学校があるんですよね。。。
    他に、日本にもハワイがあるんですよね。鳥取県の羽合(はわい)ですが(笑)

  2. より:

    「がんぜき」は山口ではメジャーで今後も生き続けるでしょうね。独特の面白さがあっていいことばです。
    「てみ」は僕と同年代以下ではまず、使わないだろうカントリーさがあります。
    山口的には「ざる」でなく、やっぱり日本国語大辞典の(1)~(3)より、(4)がしっくりきます。
    学校にはまだありそうな気がするんだけど・・・。

  3. みなとやのよっちゃん より:

     「てみ」や「がんぜき」は今も我が家で活躍中です。
     我が家では(4)の用途で使うものも指しますが、(1)の事でも言いますね!
     (3)の事は我が家では「石ぞうけ」って言っています。
     昔ながらの道具もそうですが、言葉も残して行きたいものです。

  4. より:

    そうなんですか!
    実は今しがた(夕方)、カントリーロードをジョギングしてきたんですが、その最中も、「このあたりは農家が多くていかにもまだ、てみが活躍していそう・・・」と思っていたところです。
    ちょうど米のもみ殻を取る時期というのもあるでしょうし。
    僕が(4)しか思い付かないのは、やっぱり、落ち葉掃除くらいしか経験してないからですね。
    学校時分、エアギターならぬがんぜきギター・・・というのはありましたが。

  5. より:

    「がんぜき」は山口県では一般的のようです。私も小学校での掃除の時に使い、このように呼んでいました。しかし、「てみ」は「えぶ」と呼んでいました。「えぶ」という呼称は、今まで、誰に聞いても知らなかったので、地域限定(阿知須)かと思っていましたが、宇部から小野田にかけては使われているようです。以下のページを参照してみて下さい。
    http://bbs.c-studio.net/ube/100278.html
    九州の英彦山周辺で「がんぜき」と「えぶ」の呼称が使われていることにはちょっと驚きました。
    私の記憶では、「てみ」は瀬戸内周辺では、よく使われている呼称だと思います。
    羊さんの大辞典には「えぶ」は載っていますか。

  6. より:

    要さん、コメントありがとうございます。
    「てみ」は確かに四国ルーツもありそうですね。
    「えぶ」は全く存じませんでした。
    部屋が狭くて箱詰めになっている「日本国語大辞典」にもなかったです。
    ・・・が、みなとやのよっちゃんさんが使われている「石ぞうけ」の流れか、「えびぞうけ」は収録されています。

    えびぞうけ=ちり取りの箕(み) 方言:島根県鹿足郡

    とあるので、やはり地理的にも近いですね。
    もしかすると「えびぞうけ」が詰まったのが「えぶ」なのでしょうか。
    「そうけ(笊笥)」=ざる、竹製のざる、は全国的にも
    いくつかの地で使われているようです。

  7. より:

    「えぶ」にこだわって申し訳ないですが、少し調べました。
    「えぶ」という言葉は、元々、筑豊、宇部、石見などの炭坑や鉱山で使われていたようです。語源は、「えびぞうけ」(島根方言)「えびじょうけ、えぶじょうけ」(筑豊方言 鰻を取る竹で編んだもの)と思われ、炭坑などでは、長い名前を略して使ったいたのではないでしょうか。そう言えば、どじょうすくいの踊りをする人が定番で持っているどじょうをすくう物と似た形ですよね。
    ネットで「えぶ 炭坑」などと検索するといろいろ出てきました。
    宇部などでは、「えびじょうけ」という言葉は使われていないようなので、炭坑の関係で、筑豊地方から「えぶ」という言葉だけ伝わったのでしょうか。
    しかし、ネットで「えぶ 山口弁」などと検索すると、懐かしい言葉として、いくつかヒットがあるのですが、筑豊や石見地方では、そのような書き込みは見られませんでした。単なる昔の物として紹介されているだけです。これらの地方では、本当に古い言葉になってしまって、ほとんど使われなくなったのでしょうか。多分、宇部周辺では、「えぶ」という言葉は、筑豊から入ってきた、まだそれでも新しい言葉ということで、これらの地方ようりも少し残っているのでしょう。

  8. より:

    要さん、その後の詳しいレポートをありがとうございます。
    なるほど、「炭坑」がキーで地域性の見られる言葉、というのも鋭い分析ですね。
    地理学、民俗学の面白さにも通じます。
    ちょうど今日まで(今月)の日経「私の履歴書」が民俗学者の谷川健一氏で、埋もれた伝承、言葉、地名・・・の魅力というのを感じさせられていたところです。
    宮本常一も途中、紹介されていました・・・。
    このページはサーチエンジンからのアクセスの多いページで、要さん他のコメントのおかげで有益なものになっています。

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