指先でつむぐ愛

盲ろうという障害

金曜夜、フジ系で放映された2時間ドラマ「指先でつむぐ愛」。普段、TVを見るのはそう多くないが、内容と久しぶりの田中美佐子に興味をそそられて録画し、土曜に鑑賞した。

奥さんの光成沢美さん原作の、盲ろう者の福島智さんをモデルにした、ほとんど実話に近いストーリー。講師の福島さんの話をきき、指点字にも興味を抱いた沢美さん。やがて福島さんの通訳活動をするうち、2人に愛が芽生え、結婚にいたる。けれども、もちろん、盲ろう者との結婚生活には困難も・・・、といった内容であった。

金曜エンタテイメントという名前の枠にはもったいないくらいの、素晴らしいものだった。TVドラマであるから、あまりに障害者のシリアスな負の面ばかりを強調するものでもないが、かといって単純にお涙ちょうだい的な安易なものでもない。盲ろう者の生活の不自由さや、コミュニケーションの取り方などを考えさせてくれる。また、それ以上に、盲ろうという重度の障害を抜きにして、人間として生きること、夫婦のあり方という本質が同じものであることを気付かせてくれて素晴らしかった。

夫婦の物語

福島さんが、決して通訳を求めるために結婚するのではないこと、幸せになれると思うから、という気持ちで自らの障害に気負うことなく、堂々とプロポーズする男らしさがいい。また、それを即座に受け止めた沢美さんの、健常者が盲ろう者と結婚するのは大変、という友人がアドバイスしたように、それが世間の一般的、常識的な考えであろうけれども、障害がどうこうと難しく考え過ぎないで、「自分が励まされるように思える」ことから指点字を覚え始めたように、自分の価値観を信じて軽く乗り越えてゆこうとする、何とも明るく軽やかな生き方がいい。

もちろん、現実的には24時間、くっついていないとコミュニケーションできない、身の回りのことが自分1人ではできない盲ろう者との生活はきっとドラマ以上に深刻なもののはず。ドラマではユーモアを交えて紹介されているが、重度の障害を持った家族や、病気や老いで「介護」が必要な現場にも共通するところが多いだろう。

結婚前からこの苦しさが分かっていたこととはいえ、あまりの重荷に追いつめられてしまう、そんなときに「久しぶりにお母さんに会ったから甘えが出てしまった」という本音や、精神的な重苦に耐え切れずに全てを放り出してお兄さんに電話するところが一番の見せ場だったろうか。

夫婦役の田中美佐子に中村梅雀、家族に野際陽子、佐野史郎といった配役がTVドラマを超えた内容の濃さだった。当初は「空回りしてくたびれる」と妹の結婚にも冷ややかだったように思えた兄の、優しく諭す、包み込むような電話のシーンは、このドラマの主題の夫婦愛だけでなく、家族愛、兄妹愛という一面をも見せてくれた。不満をぶちまけたなら、「それでやっと普通の夫婦になれたということ」、「福島さんのために、してあげるという気持ちでいたんじゃないか」、「そこまで思い上がっとったんか」、「おまえの弱さを受けとめてくれるのが福島さんだから結婚を認めた」・・・。沢美さんのみならず、見ている者にも意外でハッとさせられる。

生きる、生かされる

兄が諭したとおり、相手が障害者、弱者だから「してあげる」という思い込みは、僕たちが陥りやすい誤りだろうと思う。例えば、ボランティアをこころざす人が、人の力になりたい、という思いはいいのだが、相手が弱者だからしてあげている、という気持ちがあると、表面的な支援はできても、お互いに人間としての付き合いはできない。ボランティアをしようとするとき、心のどこかに、自分より弱い人に接することに安心感を持ち、してあげているという優越感を得てしまいがちでないだろうか。

僕自身、手助けを受けることの多い立場ではあるが、障害者や弱者を手助けて気持ちが満たされるのは、誰しもの心に備わっているもので、そこに喜びを感じることができることには、感謝される立場であると同時に相手への感謝の気持ちも必要だろうと感じている。ボランティアという身も相手の存在あってこそで、自分が相手に必要とされている、生かされている、という思い。障害者も健常者も、お互いが相手を生かし、相手によって生かされている。僕自身、自戒をこめて常に言いきかさねば、と思う。

今回のドラマは盲ろうという福島さんの特殊な障害ゆえに、福島さんの側に視点がゆきがちだったが、あらためて思うに、原作が沢美さんの手であるように、福島さんが沢美さんによって生かされている以上に、沢美さんが福島さんの存在あってこその輝きがいい。必ずしも夫婦でなくとも、やはり、人間が魅力的であるとき、輝いているときは、本人の力以上に、周囲がその人を生かしているときなのだと思う。

エンディングでは、実際の福島さん、沢美さんご夫婦の映像が流れていて、これがまた非常にいい。9歳で失明し、9年後の18歳で失聴し、さらに9年後の27歳で・・・、36歳で・・・、45歳で・・・と語る福島さんと沢美さんの明るい笑顔は、沢美さんが初めて福島さんの講義をきいて感じたように、これ以上なく僕らを励ましてくれる。障害者は健常者の困難を代わりに引き受けるために生まれてきている、それを周囲に気付かせるために生きている、という考えをずっと以前、目にしたことがあるが、福島さんの存在はそのとおりであると思える。生かされているのは僕らの方であるとの思いを強くする。

指先でつむぐ愛 (フジテレビ)


 

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