聾学校教員への転身

働く広場 2014年10月号

以前、2度取り上げた障害者の雇用啓発紙「働く広場」。1年前の号になるのだけれど10月号特集が「教育現場と障害者雇用」。教育を「受ける」方の支援についてはよくきくが、教育現場で障害者が働いているか、活躍できているか。冒頭に紹介されているのが日本で初めてろう者自身による手話研究で博士号を取得された、東京大学先端科学技術研究センター特任助教を経て現在、広島大学講師の中野さん。

中野さん自身は講義や研究・会議で手話通訳、また、手話のできるスタッフによるサポートを受けているという。仕事(研究)の対象が手話自体であることやアクセシビリティということなので聴覚障害者の職場環境としては恵まれている方だが、もちろん自らが切り開いてこられた道。但しまだ、教育現場での「聴覚障害と視覚障害の大学の教員は非常に少ない」と述べられているとおり、僕も大学と聾学校(特別支援学校)以外で聴覚障害者の教員というのは知らない。普通の小中高にいてもいいのに。

学校教員という点で、特集の主題からは外れてくるが、「障害者を雇用する企業、事業主に対して思うところは」と問われて答えた、これこそが聴覚障害者の就労関係の真実をいいあてている、中野さんの次の言葉。

本人が持っている力に見合う仕事を与えてほしいと思います。私の友人は難関の国立大学を卒業後、ある新聞社で働いていましたが、同期は昇進していくのに自分はそのまま。結局、退職して大学院に入り直し、聴覚障害特別支援学校の先生になりました。

僕にも支援学校(旧聾学校)で教える聴覚障害教員の友人知人は多い。中野さんのいう新聞社の友人というのも、もしかすると僕の知る方かもしれない。中野さんの例にあるとおり、優秀な人ほど聾学校の教員になりやすい。もちろん教員の道を選ぶのは悪いことではないが、選択肢が限定されてしまうのは非常に残念なことと常々、思っている。

中野さんのケースに同じく、僕の友人も同じく長く行政マンとして勤めていたが年を経て教員に転身した。僕から見ると彼ほど優秀な職員も見当たらなかろう、彼ができなければ他の誰ができるのだろうというくらいの資質であったが、それでも行政(役人)の仕事が続けられずに教員になってしまう。悲しい事実だ。

もちろん、続けられない、満足できないというのは、仕事そのものでなく、聴覚障害者として与えられる役割が、また環境がということ。特に行政の仕事というのは役職(ポスト)を経験するかどうかが全てで、優れた技術を開発したかどうかとかいうその人本来の仕事の出来不出来ではなく、「経験」で差が付く。あるポストに就けば、それはその人間しか経験できない(他に競争相手のいない)果実を独り占めできるがゆえに、行政世界で必要とされる能力を独占的に身に付けてゆく。この友人も中野さんのケースも、他の職員よりずっと優秀でできるはずで、本来、昇進の遅れるような、ポストに就けない理由はないはず。それでも辞めざるを得ない現実。

また話が飛躍するが、一方で、転身先に聾学校教員を選ばざるを得ないというのも非常に残念なこと。聾学校教員は環境面では最も恵まれた類のもの。きこえないことや手話が当然であり、教える対象も同じきこえない子ども達。教員という職業が1人のプレーヤーによる専権的なものであるという点でも有利で、他の職業のように自分以外の周囲が皆、聴者という中でひとり孤立奮闘する苦労面も薄い。そういう意味では仕事はやりやすい点もあるだろうが、一方で生徒の何よりの関心は社会に出てからのこと。仕事のこと。圧倒的大多数の聴者の中で苦労しつつもどう関係を築いていきながら仕事をするかということ。教員だけでは、苦労の多い社会に出てからのロールモデルを生徒が見つけにくいというのは大きいだろう。

どうしても聴覚障害者が活躍できる職場は、こうした聾学校や手話や・・・といった障害自体に関わるような狭い範囲に限定されがちになる。それはそれで必要な大事なことであると同時に、僕自身の理想は、聴覚障害者も普通の職場で聴者と伍してやってゆくこと。実際には並大抵の苦労ではないし、例も多くはない(真の理想は、並大抵の苦労がなくても通常の努力で聴者同様に能力が活かせるような社会になること)。

僕の知る行政からの例も、中野さんの挙げた新聞社からの例も、彼らの転身に共通するのは、行政も新聞社も表向きでは「差別のない」、「障害者が活躍できる」・・・云々のことを宣言しているいちばんの仕事でありながら、実際には自らの職場で決してそうはなっていない現状。ともに机上の計画であり、紙上の美言であるところが大きい。僕自身の職場でも、行政(公務)という世間的には非常に恵まれた職場でありながら、同障の職員が続けて辞めていった。聴覚障害者が仕事を辞めないで済むような職場でありたい。

20150724

 

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