がんばれ油谷さん

油谷さんにお会いして

先日の読売山口スポーツ大賞表彰式で、今度、アテネオリンピックの男子マラソン選手に選出された油谷繁さんにお会いする光栄な機会を得た。同じくオリンピック代表に選出された国近友昭選手とともに、2人が山口県出身ということで、急きょ、読売山口スポーツ大賞の特別賞に決まったものである。2人は既に五輪への代表選出が有力視されていたから、選考結果発表を待っての特別賞追加は予定されていたのだと思う。この意味でも、僕は非常に幸運な年に受賞できたことを感謝している。

オリンピック選手という時の人を間近に見ることができて、一緒に写真に収まって、おまけに話しをすることができて大感激したのはいうまでもなく、それ以上に強く心を打たれたのは、油谷さんの純朴な人間性を直に感じとれたことである。

純朴な方

油谷さんは気取らない人である。威張ったところが無い。偉ぶらない。スター気取りが全く無い。浮ついていない。表彰式前日、県庁を表敬訪問されたときの姿を見て、それはすぐに分かった。表玄関で花束をもらってから職員の見守る1階のエントランスホールを歩かれたのだが、世界の大舞台を幾度も経験している方であっても、その姿は、見るからに生真面目で、緊張に身体を硬くさえされているかのようにみえた。

表彰式にも早い時間に到着されて一人静かに待たれている。まるで受験生のような初々しささえ感じられるほどだった。式が始まるまでの時間、僕は、思い切って声をかけてみた。手話通訳者がいてくれたおかげで、一緒に写真に収まり、話をさせていただくという、元々のミーハー性格で厚かましい行動に出ることができた。

話した、といっても、初対面の、しかもオリンピック代表という相手に突然、なれなれしくするわけにもゆかず、すべてこちらが何かをきく、という形で答えてもらった。「アテネの下見には再び行かれるのですか?」「試走されますか?」「昨夕も今朝も練習されたのですか?」等、何だか、取材みたいになってしまって、自分で苦しかった。後から思えば、もっと、他にきくこともあったが・・・。

油谷さんは写真をお願いしても、平凡な一ファンに過ぎない僕の問いかけにも、迷惑なそぶりひとつ見せず、実に丁寧に、誠実に対応してくれた。マラソンという競技が律儀さ、忍耐強さという性質を要求することもあって、一般に、陸上の選手、マラソン選手は ── トップレベルのランナーも市民ランナーも ── 大体において礼儀正しい人が多いと思う(それが僕がこの競技を好きになった理由のひとつである)。

それでも、油谷選手の朴訥さは異色に感じられた。「謙虚」という言葉さえ違う、と思えた。僕なりに解釈すると、「謙虚」というのは、自分が高い位置にあることを自覚して、一段、目線を下げようとするものだと思う。いわゆる「ノーブレス・オブリージュ(noblesse oblege〜高貴なる者の義務)」に近いものじゃないかと思うのだけれど、油谷さんの場合、どこまでも朴訥だった。「純朴」という言葉がぴったりである。「つつましさ」といってもいい。

小学校の頃、クラスに一人いるようなタイプの少年である。頭が良いとか、スポーツができるとか、かっこいいとかで目立つわけではない。はしゃいで目立つこともない。でしゃばらない。社交的というのでもない。周囲ににこやかに微笑むとか、意識して明るさを演出する人ではない。どちらかというと静かで地味といってもいいくらい。まじめで静かな存在なのだけれども、しかし、心に強さを秘めている。友達にも頼られるタイプだ。

本当の強さというもの

話していると、目の前の人が世界有数のアスリートであるとはとても信じられないと思えてくるのだが、本当に力のある選手というのはこうしたものではないかとも思う。ここ一番の、いざレースを走る時の集中力が常人と違うのだ。

中国電力の坂口監督が、世界選手権に同時に出場した尾方、佐藤両選手よりも油谷選手が頭一つ抜けている、尾方、佐藤両選手は油谷選手にはまだかなわない、ということを語っていたように記憶している。もちろん、僕に力の差は分かろうはずもないが、世界選手権やオリンピックという頂点で勝負を決める時、最後の最後はこうした無心さ、純粋さが命運を分けるのではないか。そう考えると、普段の柔和な表情の中の輝く瞳が、ここぞというとき、動物的な、まるで狼のような鋭い目つきに変わる油谷さんの強さというのが何となく分かる気がする。

アテネオリンピックまで残り5ヶ月というこの時期、正直なところ、式への出席や知事訪問している悠長な余裕はない、というのが本音ではないかと思う(国近選手ともう一人、今春、大学進学で既に合宿に入っているという受賞者の2人も欠席されていた)。その忙しいスケジュールをやりくりされたのであるなら、油谷さんは、当然、この機会に故郷の長門市も訪問されるだろうし、もちろん、夜は久しぶりの実家でご家族とくつろがれるのだろうと僕は思っていたのだが、今回は実家にも長門にも寄られないという(*)。推測するに、油谷さんは県庁訪問と表彰式出席のためだけに、貴重な2日を割かれたわけである。

*3月31日の長門市制施行50周年記念式典に出席されるため、再び、山口に帰られていたことを、後日、知った。

油谷さんは、式が終わって退出される時も(来られた時もそうだったが)、周囲に一人一人、丁寧に頭を下げて挨拶されてから、バッグを肩に抱えて一人、ひっそりとホテルを後にされた。そのどこまでも純朴な姿に、速い、強いだけでない油谷さんの人間性、姿勢というものに、僕は強く感動させられた。しびれっぱなしであった。

油谷さんの活躍を心からお祈りしたい。


表彰式にて油谷さんと /
表彰式にて油谷さんと

 

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