第60回福岡国際マラソン選手権大会 7

リラックスできていたレース前

いつの頃からか、この完走記はレース中の状況というより、あくまで自分の気持ちや思いがどう動いたか、ということの記述が多くなった。途中経過のタイムがどうこうというより、誰と競って順位がどうだったかというより、あくまで自分にとって心に残せる走りができたかどうか、力や喜びにつながったかどうかを意識するようになった。意図的にそちらの方に重点を置くようになったが、記憶が薄れる前に、レース展開もきっちり書き残しておこう。

前日、愛車3rdプレリュード(1989年式)で福岡入り。2年前はチープに往復とも高速バスであった。安さが魅力で、これまで頻繁に利用していたが、始発地の山口からでは時間もかかるし座席の座り心地もよくないので、最近はまたマイカーに戻っている。もっとも、ゴーカート並みに車高の低いプレリュードも腰には決して良くないのだけれど・・・。

11時過ぎに山口を出発。時間もあるので、下見を兼ねるべく古賀インターで降りてから3号線を走る。大学時代を過ごし、卒業後も頻繁に訪れている地ゆえ、特に3号線~平和台競技場間は、風景も、もう頭に刻み込まれているのだが、いよいよ明日だなという高揚感を持って前日に見ると、やはり違う。やる気がみなぎってくる。

ワンチャンス

外的(気象条件)、内的コンディションともに必要以上に過敏になることもなかった。天気予報は例により、数日前に一変して週末が一気に冷え込むものと変わった。実際、土曜の風は強かった。日曜は福岡も山口もこの冬、一番の冷え込みとなった。ただ、そもそも福岡はここ2年続けてレース当日が荒れている。昨年の防府はさらにひどい雪の寒さとなった。そういうことを経験すると、心の持ち方がだいぶ強くなってゆける。昨シーズンの防府を経験しておけば、たいていの状況はましに思える。「あのとき、やられた分、今度は一丁、やっつけてやろう」という前向きな気持ちになれる。

当日、風はあった。この日の福岡は最高気温が8度と例年より数度、低く、風も平均で5m/s以上あったらしい(気象庁データ)。けれども、雨も降っていない、雪も吹雪いていない、こんな好コンディションはないぞ、と自分で思えた。スタート前から、これはまたとないチャンスだと思えていた。

体調も悪くはない。マラソンは、スタート前でもなおその日の調子が計れず、走り出してみないと、そして、中間点を過ぎないと、その時のコンディションが分からない。これがマラソンの調整の難しさ。一流選手でさえ、調整の難しさに苦労している。積み上げてきた練習が必ずしもうまく発揮できない。直前のほんの少しの匙加減で大きく結果が変わってくる。

それはあるにせよ、少なくとも、スタート前の僕は悪い感じでなかった。何より、大きなケガや故障がなくスタートラインに立てるだけで充分だった。9月に悪化させた臀部痛がまさか完治しないままとなってしまったことは大きな誤算だった。鱒渕マラソンがそうであったように、きっとレース中にもハムストリングスから膝横にかけてシビレのような腫れが出る不安もあったが、それさえ充分な覚悟ができていた。

ラストチャンス

スタート前
大濠公園スタート前

細かなことを言い出すときりがない。言い訳を探すと無数にある。とにかく、自分には残された年齢的な猶予は少ないのだ。今、練習できている環境がこの先、保証される訳でもない。今日がダメでもまた次を頑張るつもりは持っている、目標に向けて何度でも挑戦するつもりでいるけれど、スタート直前に限れば、そんな甘えは許されない。今日がダメなら次は決してない、つもりでないと。ここ最近は「これが最後のマラソン」のつもりで臨むようになっていた。

一応、2週後の防府読売マラソンにもエントリーしているが、気持ちとしてはもう、福岡一本で絞ってきた。福岡がダメなら防府、というほど器用な力の配分は自分にはない。今日がワンチャンスでラストチャンス。悲壮感でなく、冷静に受けとめることができていた。集中できていた。

大濠公園でスタート位置に着き、ふと視線を池の方に泳がせると「3分前」と手話で伝えてくれる男性が目に入った。「え?」「どうして?」。「主催者が用意してくれた?」「まさか・・・」と思ったが、どうやら任意で僕を見つけてくれたらしい。スタート直前の、わずかな時間であったが、数m離れた距離で会話することができた。普段は50cmと離れていない、隣の人とも話ができないけれど、離れていても話せるのが手話の素晴らしさだ。東京から転勤で福岡にやって来ているというNさん。護国神社前でも激励がしっかり目に入った。本当にありがとうございます。おかげでスタート直前にもまた、新しい力をもらうことができた。

10秒前で最前列に並び、号砲を待つ前、またしてもフライングしかけた。身体が前のめって揺れてしまったが、それも自分で笑える余裕があった。


 

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