千年の祈り

中国映画に関心はわかなかったが・・・

千年の祈り [DVD]
千年の祈り

ミュンヘンへの往復便、計4本の最後に見た機内映画。今回は洋画に日本語字幕のつく作品がだいぶ少なく、聴こえない身には選択肢があまりなかった。番組掲載の機内誌を何度もめくって見る中でこの「千年の祈り」も度々、目についていた。それでも中国映画*に関心は向きにくく、本当に他に選ぶもののない、やむなく消去法で残った一本という形の出会いであった。

* 制作は米・日


ところが見てみるとこれが一番の収穫だった。抜群に良かった。帰国便は当然に疲れきっている身なので映画を見る意欲も薄い。ついさっきまでの旅の感動や興奮を乱すような刺激的な作品は見る気になれない。そんな中で復路中に見た2本は、疲れた身体にしんみりと染み込んでくる、静謐なシーンの心地よさというものがあった。

心かよわせられない哀しみ

見始めてすぐに「東京物語」を連想した、静かな進行の中に登場人物のそれぞれが抱え持つ何ともできない哀しさが胸を刺す。最近は上映数も減っているという単館系映画で、一部の映画好きや批評好きが見るくらいのレベル。一般に支持される映画ではないだろう。

それでも僕自身にとってよかったのは、人と人の関係はことばでありコミュニケーションあり、が全てであることの問題を突き付けていたから。そして、何より父親の挫折がふと明らかになったときから、僕自身がまさにその双方に置かれた環境で、とてもリアルに感情移入できた、させられたからだ。

父親が様々な場面で出会う米国人、あるいは公園で親しくなるイラン人のマダム、娘の方も自我の確立や恋人との関係や・・・において生ずる苦悩。僕には父娘の関係以上に父と娘それぞれの抱えた葛藤であり挫折であり、がいずれも身に染みて目が離せなかった。

痛みの思い、やさしさ

母国の中国語よりも(アメリカでの)英語の方がストレスを感じないで済む、という娘の立場は、まさしく僕が求めて海外旅行に出かけるように、母国語のきこえない日本にいる時よりも最初から言葉の通じない異国にを身を置いた方が心の軽くなることと通じる。

突然やって来て疎ましいほどの世話をやく、かつては無口で親子のコミュニケーションがなかった──がゆえに娘の心に深いトラウマを残した父が今では豹変して饒舌になっているのも、本当は話したいことをたくさん持っていながら沈黙を通さざるを得なかった父なりの事情があったのであり、心閉ざさざるを得ない境遇であったからであること、これもきこえない自分の身に通じる思いとして心深くに響いた。

帰国して原作の小説が傑作の誉高いことを知り、即、注文。10編からなる短編集は、表題作以外も評判に違わぬ面白さで心に沁みいる(こちらもまた別途、エントリ予定)。

小説もそうであるけれど、痛みを抱える者の心を鋭くえぐって、しかし、作者の目線は優しい。映画では分かりやすくそれが表されている。

満足度:★★★★★
2009年アメリカ 日本
2010/07/26 ANA ミュンヘン便復路機内にて鑑賞


 

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