アイリス

イギリスで最も素晴らしい女性

アイリス

「イギリスで最も素晴らしい女性」と称えられた、作家にして哲学者、アイリス・マードックとその夫ジョン夫婦の愛を描いた物語。

小説を次々に発表した輝かしい業績で世間の耳目を集めていたアイリスだが、あるときを境に変調が訪れる。現代医学では対処できないアルツハイマー病を患ってしまったのだ。作家という、言葉を何よりも大切なものとする職業でありながら、アイリスは次第にその言葉を失ってゆく。やがて意味のある会話さえできなくなるほどに。傍らで支え続ける夫ジョンは疲労の色を隠せず、時に苛立ちを爆発させてしまいながらも、それでも最後まで一途に妻を見届ける。

二人の出会い、恋の芽生え、そして愛の深まってゆく若き日のシーンがめまぐるしく入れ替わる。老いた今の夫婦と若き日の二人のシーンを交互にシンクロさせながら物語は進んでゆく。

それは、初めのうちは老夫婦の回想シーンとして自然に捉えることができるのだが、アイリスが病を患ってからは、意識的に呼び起こされる回想ではなく、アイリスの錯綜ぶりを示すもののようにも思えてくる。果たして過去の記憶がアイリスに残っているのかどうか、途切れ途切れに現実と過去とが再現されてゆく。

冒頭、ジョンがアイリスに語った言葉──「現代人に通じるのは言葉より映像だ」。まさしく言葉を失ったアイリスだが、しかし、ジョンと二人で共有したあの日々は、あの光景は、お互いに今もなお色褪せることなく残っている。そう語りかけてくるかのように、過去の日々の映像が差し挟まれている。老夫婦の現実を追うだけではあまりに重苦しくなったであろうこの映画を救っているのが、ケイト・ウィンスレット演じる若きアイリスの美しさであることは間違いない。だが、それ以上に、美しい青春の日々の映像は、会話を失ってなお夫婦を結び付けるものとして、また、二人を終生勇気付けるものとして美しく再現される。まさしく「映画」的手法。

素晴らしき哉、英国映画

自由奔放に複数の男性と関係してジョンを苦しめもした若き日のアイリス。束縛されることを嫌いつつも、二人が自転車で駆けるデートシーン、アイリスは、プロメテウスの神話を持ち出して言う──

「あの神話のように私を離さないで」

人は誰も老いてゆくし、大切なものを失ってゆく。それでも、「かつて見た世界、ピュアな自分」(アイリス)を忘れなければ、それを拠りどころに最後まで生きてゆくことができる。最後まで相手を離すことなく。


満足度:★★★★
2001年イギリス
2003/03/16 山口県教育会館にて鑑賞

(余談)
いわゆるミニ・シアター系のこの映画の存在を知ったのは、正月、福岡のKBCシネマで『モンテ・クリスト伯』を観たときに予告編で流れていたからだが、まさかこんなに早い時期に山口で観ることができるとは思いもしなかった。全国での上映箇所がわずかに18都道県と限られている作品。それが今回(3/16)、山口で一日(萩市と山口市で各1回)限り上映されたのは、<山口日英協会>なる団体が主催してくれたおかげであった。

先週観たばかりの「007」の「M」が今回のアイリスとなるジュディ・デンチには、観ている僕としてはすごいギャップでもあるのだが、演じ分ける演技がさすがだ。エキサイティングな「007」に続き、今度はしんみりと人生を考えさせられた、これもまた英国らしい品のあるいい映画。再び、「素晴らしき哉、英国映画」であった。


 

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