ビッグ・フィッシュ

人生はお伽話

ビッグ・フィッシュ

僕たちの人生は、映画ほどにドラマチックじゃない。ある意味、平凡で退屈な日常の連続である。だから、ロマンを求めて映画館に通う。『バットマン』、『シザー・ハンズ』で知られる、ファンタスティックで独特な感性をもつティム・バートン監督の新作は、そんな僕らの思いを心ゆくまでかなえてくれる。

子どもの頃に読んだ、読んできかされたお伽話は、次のページが待ち遠しく、期待にワクワクした。この映画も、そのお伽話の世界に浸ることができる。現実にはあるはずもない、嘘で塗り固められた虚構の世界、荒唐無稽なホラ話とは考えない、現実とフィクションとを区別しようとは思わなかった、子どもの頃に帰ることができる。

例えば、旅の途中、森の中で迷い込んだスペクターなる幻の町は、日本でいう竜宮城であろうし、それから、巨人、サーカス、魔女、といった存在も然り。これらはどれも、物語の中の世界である。謎めいている。子ども心にも何かいかがわしく感じられるけれど、否定できない。

そしてまた、現実にあっていい話、僕らも願わくば、そうありたいストーリーである。これも例えば、主人公エドワードが運命の女性サンドラに出会って求婚に至るまでのストーリー。一年に一つだけ、彼女のことを教えてもらう条件でただ働きを続けたエドワードが、ようやく彼女の元を訪れたときは時遅く、既に婚約済であった。それでもあきらめずに、講義中のスライドに、また、青空に飛行機雲の彼女への愛のメッセージを送る。極めつけは、水仙の好きな彼女のために、「5つの州の花屋から取り寄せて」つくった1万本の水仙畑。相手の女性が「バラが好き」だからといって、「5つの県の花屋から取り寄せ」るほどのバラを送る男性は、まず、いないと思うし、そうされた女性だって、不気味なだけである。でも、僕らは心の中では、そうしてみたい(されてみたい)気持ちもちょっとは持っているはずである。僕らは映画にそうしたヒーローを、ヒロインを求めている。せめて映画の中では夢見させてほしい内容をかなえてくれて、幸せな気分にさせてくれる。

愛、冒険、旅

愛の物語、冒険の物語、旅の物語であるが、全てがお伽話でもない。

過去と現在の、また、真実とお伽話とをシンクロさせている。つぶやきにも収納した、「アイリス」でも用いられた過去と現在のシンクロ手法は、想像力の中で生き続けるゆえに過去の映像の美しさが際だつ。そして、「アイリス」と同じように、時を経ても色あせない夫婦の愛を伝えようとする。

よく、「夢見る頃を過ぎても」という。エドワードは夢を見たまま、夢の中に死んで永遠になった。人生、こんな風に生きることができたらいいな、と思わせる。そして、それは勇気を出せばできるはずだと気付かせてくれる。僕達はもっと、自分の物語をつくるべきだと教えてくれる。素晴らしきかな、人生! と感動させてくれる映画である。


満足度:★★★★★
2004/05/29 ワーナー・マイカル・シネマズ防府にて鑑賞


余録
 先週観た公開初日の「トロイ」は、実は、本当ならこちらを観たかったけれども上映時間の都合がつかなかったための結果であった。この日も、観客は圧倒的に「トロイ」のよう。確かに「トロイ」も素晴らしかったけれど、心に残る、じんわりと暖めてくれるという意味では、こちらの「ビッグ・フィッシュ」に軍配を上げたい。


 

  Related Entries


Message

メールアドレスが公開されることはありません。