浮世女房洒落日記

江戸のブログ

浮世女房洒落日記

浮世女房洒落日記
著者:木内昇
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江戸は神田で小間物屋を営む女房──といっても若い27歳のお葛(かつ)なる女性が思い立って正月元旦から書きとめた日記の一年間分。概ね毎日であり、数日、飛んでるところもあれば一行の日もあり、これは書き留めておかねば、という気合いのあるときはまた詳しく。

──と、まさに今の時代の個人ブログ、「〇〇ママの△△日記」というタイトルでゴマンとあるものとほとんど変わらない。二人の子どもを抱えているので子どもの成長だけで充分なネタ、とはいえ、それだけだと読者が限られるので、もちろん商売やら、旦那のこと、ともに住む近所(という以上に親しい)付き合いのこと、若い娘の恋の相談と仲介役のこと、それに自分の趣味や男の好みやちょこちょこ手が伸びる甘いものや・・・が、日々の日記とはいえ、読ませるだけの面白い内容となっている。

一応、冒頭で古い洋館の天井裏から発見された旧い(江戸時代の)古書、日記ということになっているが、そんな前触れなくスタートしても違和感のない内容。言文一致は明治以降の文学運動だろうのに、そんないちゃもんも忘れてしまうくらいに活き活きとした描写で江戸の風俗が描かれている。毎月が章立てしてある感じで月ごとに文中に出てくる江戸特有の風習や地理やの脚注が記されている。普通、脚注というのはちょっと面倒くさいものなのだが、何ヶ月か進んでこのパターンに慣れてくると、逆に脚注によって江戸の風習を知るのが楽しくなってくる、それを心待ちにするような、いつの間にか当時のことを勉強させられるというか、その時代に引きずり込まされている、筆者の得意なパターン。

当世の一葉

日経に連載している「ヒロインは強し」が意外に長く続いているが、著者はそのスタイルや「漂砂のうたう」といった題材の取り方や、等々、樋口一葉を思わせるところが節々にある、おそらく本人自身も意識はしていると思うが、この作品の中でも、市井の女房に過ぎぬお葛に鋭い馬琴と京伝評をさせている。

注(真似て):幼少時より読書好きの一葉は7歳で滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」を読破したといわれている。本作では風流に通じた隣家の旦那からお葛が馬琴と山東京伝の2作を借りて読み比べる。後世、人気がうなぎ登りになったのは馬琴の方だが、旦那に問われて「京伝に軍配」と答えると「やっぱりお葛さん、わかってるねぇ」。

だって世の中そのものが厄介で怪事だらけなんだもの。それを食べやすいよう滅法柔らかく煮込んじゃあ、えぐみも歯ごたえもないってもの。京伝の作は、たとえ滑稽な話でも、そういう世の不条理が織り込まれている気がする。

世の中には出せば売れる、話の判りやすい小説家も多いが、それとは対照的な位置にいるような作者自身の志向が、こうして時々垣間見えて面白い。とはいえ、基本的にはとにかく愉快に笑わせてくれる日記で素直に面白い。

なるほど、後家ねぇ。わかるような気もすると思っていると、亭主、調子に乗って私に「おまえも後家になりゃ少しは色気が出て、男にちやほやされっかもしれねぇぜ」と言った。私が後家になるってことは、あんたが仏になるってことだよ。そんなことにも気付かないで何を浮かれてんだ、と思ったけど放っておいた。

★★★★★

木内 昇(中公文庫)

2015/06/28読了、2015/07/27メモ


 

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