角田流スポ根ドラマ「空の拳」

角田光代(日本経済新聞出版社)

2013/04/21読了、2013/04/28メモ

異色長編

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これまでどちらかといえば徹底して「女」を描いてきた著者の初のスポーツ小説は、あろうことか男臭さと人気凋落にしてきょうびマイナー競技としては代表格ともいえそうなボクシングの世界。

長くジムに通っているらしいとはいえ、よくまあ(それだけで固定層の女性読者もちょっと離れそうな)そんな世界に挑戦したもの。おかげで図書館の順番待ちもなくすぐに借りることができたが、評判もそれほどなのか、確かに物語の最初からミステリアスにしてすぐに引き込んでゆくようないつもの角田ワールドとだいぶ違う。

ボクシングものというならハングリーな男を期待して読み始めると、「あれ?」というくらいに主人公が随分とヤワな男の子なのに面食らう。大学時代まで恋人はおろか友達すらできず、文学の世界ですべてを体験してきたらしく、のっけからとにかくよく泣く。ものすごい泣き虫で、会話には女の子言葉も抜けず、当然、運動神経はまるでなし・・・。

さすがに僕も単行本480頁を読み切る自信はなかったが、まあしかし、そんな設定もさすがは熟練の角田マジック、異色な構成もなかなかに楽しめた。

彼らがつかもうとしたもの

いってみれば、これは角田流スポ根小説。

6年前にエントリしたAERA記事の三浦展氏によれば「汗くさいことがカッコ悪いと思えない」「最後のスポ根世代」というのが、角田さんや僕を含むバブル世代というやつ。それを僕たちの目線でつくると引かれるので(笑)、主人公の年齢は二十代とずっと下の世代にしている。

主人公と彼をとりまく男の子たちのボクシングを通じた精神の成長を、拳の中でつかもうしたもの、つかめなかったものを描いているといっていいと思うのだが、年齢を相当に下の世代にしてはいるけれど、根底にはスポ根の美学? が流れている。

それは「くまちゃん」を読んだあたりから、僕もはっきりと分かるようになった、とりもなおさず角田さんの意思というか決意というか信念のようなもの。自分もまだまだ若い人には負けていないが、でも若い子に頑張ってほしいという純粋な思い。若さにエールを送るような、そんな内容として僕には読めた。

もしかしたら会長だって、このジムからいくらなんでも王者は出ないよな、とか、世界はまさかな、とか思ってるかもしれない。おれもなんとなくそう思ってるとこはある。でも、べつのところで、そんなの関係ない、やっぱり自分じゃないかと思いもする。自分ががんばるしかないのに、何ジムのせいにしたり設備のせいにしたりしてるのかって。そういうのを、なんかこう、ガツーンと思い知らせてやりたいっていう、なんていうんですかね、山っ気っていうか、野心? みたいなのも出てきたし、それから、もっともっと静かなところ、もっともっと果てしないようなとこを見たいって気持ちもあるし......

満足度:★★★★


 

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