新書百冊

坪内祐三(2003年刊 新潮新書)

2003.5.18読了 5.25メモ

創刊相次ぐ新書

新潮新書

近年の新書創刊ブームに新潮社も新たに乗り込んだシリーズ第一集。

新潮といえば文庫界の重鎮的存在。それが猫も杓子もの流れにのって加わってきたのは、「単行本よりも文庫よりも新書」の方が売れるようになった、経営上の問題も含めて、文芸の老舗も今の時代に抗えなくなったことの証明であろうか。

かつての岩波新書、中公新書、講談社現代新書の御三家時代に比べると、随分、新書の内容が軽くなってきた。今や新書は、教養、専門知識、学問の入門書を連想させるというより、週刊誌や雑誌の延長上にあるような、ちょっとした読み物としての性格が強くなってきている。

かくいう僕も新書大好き人間である。手にとって読みやすいサイズ、文庫本よりも大きな活字で、短い時間で読み切れる。どこかに出かけるとき、新幹線や電車やバスや・・・といった移動中に読むのに最適で、こういっては不真面目な姿勢であるけれど、ちょっと手の空いた時間に「本を読むことができた」という満足感を与えてくれる。

けれども、感銘を受けて今もよく内容を覚えているもの、今でも時々再読するものは、やはり以前の古い(というほどではないが)新書であることが多い。

読書自伝と近代文化史研究

本書は、日本に新書が誕生して65年という新書本の歴史を、著者が自らの30年の新書読書経験を振り返る内容となっている。ノウハウ本、読み物的性格の強くなってきた新書出版ブームにあって、今一度、過去のすぐれた新書を、その果たしてきた役割を、時代的背景や文化とからめて語られている。

本書のような見識ある著者によるガイド本は大歓迎だ。

既に僕自身が今、新書本に求めている「手軽に読めるもの」として、本書も手にしてみたのだけれど、なかなかどうして、本書は読みごたえあるものになっている。自らの読書遍歴本、書評本であって、同時に、最終章とあとがきで総括されているように、著者独自の近代日本の文化史の考察、出版情況文化史という点にも仕立て上げられている。ただの読書自伝で終わらせずに、うならせる。

高校入学前後から既に充分「シブい」本の数々を読んでいるのだなと思わせるのに、それでも大学入学当時の著者をして、「『本の神話学』(山口昌男)を読みはじめて、わずか数頁で、私のその自負心は打ち砕かれた。次から次へと知らない名前の著者や本が登場するから。」と述べさせる。当然、僕にとっても本書に登場する本は次から次へと知らないものばかりである。

『慶応三年生まれ 七人の旋毛曲り』『古くさいぞ私は』その他、関心は強かったのだが、著者の本を読んだのは初めて。若くして活躍している作家という評判を知っていたが、それも若い時分からのかなりの読書量、関心の広さを本書で知って、さすがだと納得させられる。

また同時に、「新書でありながら重要な一冊」の、名著「E・H・カー(清水幾太郎訳)の『歴史とは何か』(岩波新書1962年)も同じ頃買ったが、・・・きちんと読んだ気配はない」という一節には、数ページで挫折した経験のある僕もちょっとだけなぐさめられた。著者と僕とではもちろん読書のレベルは天と地ほどにも違うものだけれど、「深く感動した」「良かった」という本への共感ばかりではなく、「あの本は実は読めなかった」という共感が安心感を与えてくれる。

著者が予備校時代の19歳のときに岩波新書黄版の刊行が始まったという(全揃えを目指したというからすごい)。著者もそうだったと述べているとおり、若い頃の限られたこずかいで買える安価な新書本は、誰しも高校、大学時代に多く手にしたものだろう。20歳のときに岩波の新赤版がスタートした僕にとっても(ご多分にもれず、創刊第一号『新しい文学のために』(大江健三郎)他を当時買って読んだ)、学生時代の読書の思い出は新書と強く結びついて切り離せない。

自分なりの「新書100冊」をこの機会に挙げてみるのも面白いだろうなと思う。今度、実家に帰ったときには書棚をながめて振り返ってみたい。

満足度:★★★★

黄版が出たその五月の、十九歳の私の新鮮な気持ちを今でも忘れない。・・・

その帰りの電車で、私は、こんなことを考えた。もし私が大学を出たあとサラリーマンになったとしても、毎月新書本の新刊を三冊ずつ買って読もう。・・・ 毎月コンスタントにそういう読書を続けたら、それだけでもかなりの知識が身につくだろう。ただのつまらないサラリーマンにはならないだろう。

そんな子供じみたことを考えると、それだけで私は自分の将来に対して少し豊かな展望が広がるのだった。とても安上がりな展望。しかしあの頃の新書版(それは岩波新書だけに限らず、中公新書にだって、講談社新書にだって)にはそういう一つの「小さな学校」のような輝きがあったのだ。


 

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