新選組 幕末の青嵐

木内 昇(集英社文庫)

2014/05/30読了、2014/06/01メモ

侠義に生き抜いた男たちの青春記

新選組幕末の青嵐

新選組幕末の青嵐
著者:木内昇
価格:885円(税込、送料込)
楽天ブックスで詳細を見る

時代を超えて物語の世界に入ってゆける、久々の秀作。子どもの頃の読書のように、吸い込まれた自分がそこに佇んで事の展開を間近に見ているような、不思議な感覚を味わわせる。

たまに面白いのに出会うと読み進めて残り少なくなってゆくのがさみしく思わせる。就寝前の静かな時間を選んで読み継いだ。力量に惹かれて昨年から傾倒している作者であるが、デビュー作からこれほどの筆力であったとは。巧い、素晴らしい、に尽きる。

タイムスリップ、という安直な言葉を使うのも本意でないが、解説者(松田哲夫氏)もいうくらいだから誰もが同じ思いを持つんだろう。特に後半は、結末が分かっているだけに切ない、その切なさにずっと寄り添っていたいが、またしかし、タイムスリップの宿命がそうであるように、必ずまた元の日常に戻ってこなければいけないという寂寥感が胸を締める。

新選組を題材にした作品は多数あるが、本作は隊士たちの内面、心理面に深く入り込んだところが特色。彼らの行動や事件を描きつつ、彼らが何を思いどう考えていたのか、それを作者が直接に語るのではなく、隊士の目を通して、あるいは隊士たちに語らせる中で自然に彼ら一人一人の人となりを伝えようとしている手法が面白い。松田氏はこれを、作者が隊士らの「内面に巫女的に憑依して」という言い方で解説している。言い得て妙である。

史実は知り得ても内面まで緻密に検証することはできない、そこは小説家の創作であり脚色であり、という領域になろうが、『漂砂のうたう』でも感じたが、作者にはそれでも安易にフィクションという口実を用いない、逃げ込まないような意志力を感じさせる。

新選組には司馬遼太郎の有名な「血風録」という作品があるように、血なまぐささ、また内部粛清に明け暮れたおぞましさのあることは避けて通れないが、ここではそれがあまり前面には出過ぎていない。青春期のひたむきさを主題にして、隊士らの生き方の描き方や作者のその視点が青いといえばどこまでもそうなのだろうが、信念をもって最後まで真剣に生き抜いた隊士達とそれに全力でぶつかり同化しようとした作者の共編といっていいような、その仕上がりが美しい。

「信念とか志とか、そういうきれい事ではないんだ。もちろん幕府とともに戦う。でも意地や見栄でやるんじゃない。一度ここだと信じて足を踏み入れた。そう感じたことに嘘はねぇからな。俺の中ではずっと矛盾はない。周りから馬鹿だと言われようが、これと思えるもんがあるなら、とことんやり通したほうが面白ぇさ。そうすればきっと、はっきり景色が見えるんじゃねぇか、と思ってさ」

満足度:★★★★★


 

  Related Entries


Message

メールアドレスが公開されることはありません。