臨場

横山秀夫(2007年刊 光文社文庫)

2007/11/19読了、2007/11/21メモ

組織に与せず、己の道を貫く男の生き様

2007年刊
光文社文庫

最近、実用書ばかりが続いて多少、気疲れしていたので心のカタルシスに。

これまで著者の作品は『クライマーズ・ハイ』と『半落ち』を読んでいて、その流れから最初は本書も長編と勘違いしていたのだけれど、これは短編集。警察内部で“終身検視官”の異名をもつ倉石捜査調査官を主人公としたシリーズもの。

長編の読み応えを期待していたとはいえ、短編の面白さもまた格別。

「どうしてこんなにうまいのか?」と感嘆させられるほどに、すぐに各章それぞれの物語に引き込まれてゆく。1、2ページ、早ければ数行読んだだけで、こちら(読者)の興味を引き付ける、「落としてしまう」ツボを著者は心得ている。

臨場──警察組織で事件現場に臨み、初動捜査に当たること。その要となるのが「検死官」。死体が自殺によるものか病死か他殺なのか。経験と眼力を傾注して手掛かりを探る。

物語はその死した人間の人生が検死官倉石によりあぶり出されてゆく。短編というわずかなの分量の登場人物にも人生の深いひだを見る思いで共感を湧き起こす。また警察内部という組織に生じる人間関係の愛憎や軋轢。

この小説の見事な厚みは、本来、クロスするべきでないはずのそれら調べる側(警察)と調べられる側(死体)に数奇な結び付きがあり、重なり合っている筋立て。

例により「熱い男の生き方」ぶりが、ちょっと抑えめながらも健在。それでいてホロリとさせる方も同じく。

満足度:★★★★

十年前の、たった一月の鑑識課勤務──その晴枝を倉石は「部下」だと言い切った。

階段に倉石の姿が消えた。

ひょっとすると男は二通りだけではないのかもしれない。ぼんやりと思いながら、留美は無人の階段をしばし見つめた。


 

  Related Entries


Message

メールアドレスが公開されることはありません。