沖で待つ

絲山秋子(2006年刊 文藝春秋)

2007/05/22読了、2007/05/22メモ

同期、そいつのために

2006年刊文藝春秋

『イッツ・オンリー・トーク』を読んで以来、一年ぶり。デビュー作の一冊だけですぐにファンになっていたが、芥川賞受賞作を遅まきながら今日、図書館で借りてようやく手にしてみた。

メーカーに勤める同期の物語。住宅設備機器メーカー勤務で最初の赴任地が福岡という筋書きなど、著者自身の実体験がベースになっている。

著者のファンというのは、何より彼女が同学年(同い年)で、作中人物もそのケースが多くて・・・だからで、その上、本作は福岡という舞台のおかげで一層、親しみを持って読むことができた。僕が人より余分に過ごしていた最後の一年、著者は東京の大学を卒業して福岡にやって来て仕事のスタートを切っていたことになる。あの頃の空気が小説にも充満していて、この小説のような生活をしていたんだろうなぁと思うと面白い。

主人公──もちろん著者自身の投影──は女性からも慕われるだろう、非常にさばけた、男よりの性格。『イッツ──』でもそうだったけれど、男の方がたじろぐような感じ。主人公と同期の男友だちとの会話は、漫才のようにボケと突っこみがテンポ良く、楽しく一気に読める。

懐かしさと神妙さと

芥川賞受賞で話題になっていたから、「先に死んだ方のパソコンのHDDを生き残った方が取り壊す約束」というストーリーはおおよそきいていた。知っていたのに、いざ、そのシーンになるまで思い付かなかったことを思い出させられた。似たようなことが僕にも友人にあったこと。

家族が死後に見てみたら、パソコンからいくつかの創作童話が出てきた。生前の彼を知る誰にも、家族にさえも童話なんて考えつかない性格だったというのに。小説も彼も、不思議なメッセージを残して、でも遺された者にはもうたずねる術はない。

そんなこんな、あの頃の懐かしさや同時代の共感や、また大切な友を喪った神妙さやが、ごっちゃになってしまって胸が詰まった。

「イッツ・──」でも記したけれど、著者の作品は短くテンポ良く、軽妙な文体で、あっという間に読み切れる。そしてまた最初から通して読み返したくなる。こういうのが、いい小説なのだろうか。

満足度:★★★★★

「憶えてる? 最初に福岡に行ったときのこと」

「おう。覚えてるよ」

それなら何も言い足すことはありませんでした。私たちの中には、あの日の福岡の同じ景色が、営業カバンを買いに行けと言われて行った天神コアの前で不安を押し隠すことも出来ず黙って立ちつくしていたイメージがずっとあって、それが私たちの原点で、そんなことは今後も、ほかの誰にもわかってもらえなくてもよかったのです。



 

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