夜想曲集---書評評

毎日--丸谷、朝日--鴻巣

夜想曲集:音楽と夕暮れをめぐる五つの物語 (単行本)
夜想曲集
音楽と夕暮れをめぐる五つの物語

毎日新聞の書評欄、「今週の本棚」のタイトルの隣の大きなスペースが新聞一面のトップ記事のようにその週一番の扱いを受ける作品。先週はここに本作が登場。評者も箔の付く丸谷才一氏。

丸谷氏の実績と実力と今の文壇における第一人者的位置は誰一人文句の挟める余地はないと思う、そんなことしたら文筆を職業とする人は抹殺されるだろう、僕にその心配はないのでいってみると、内容自体は今ひとつ。のっけからボードレールや評者得意のジョイスを引き合いにしているところがさすがに・・・と一目、置かせて胸をのけぞらせるのだけれど、その後はストーリーの要約紹介に大半が割かれ、最後は「短編小説は音楽と夕暮れによく似合う」と、着地だけうまくまとめすぎで狡い。

今週の本棚:丸谷才一・評『夜想曲集』=カズオ・イシグロ著

朝日は鴻巣友希子氏評。こちらもやや穿った見方というか、また面白い視点。主題は男女間の危機や顛末にあるのでなく「才能と才能がもたらす「壁」をめぐる物語集」と捉える。「人々のすれ違いや戸惑い」、「人と人の間の溝が深い処に発している」という分析には確かにと思わせる。

【レビュー・書評】夜想曲集 [著]カズオ・イシグロ - BOOK:asahi.com

丸谷氏がボードレール『悪の華』、ジョイス『ダブリンの市民』、A・S・バイアット『マチス・ストーリーズ』、さらには憂愁の味を「もののあはれ」にまで結び付け、鴻巣氏は「アマデウスとサリエリ」のテーマを持ち出すなど、よく分からない凡人はとりあえずそのあたりで煙に巻かれるというか(笑)、これが個人ブロガーとは違うプロならではの貫禄だろうか。

一昔前と違い、今は個人ブログの中にもプロを上回るような秀逸なレビューがたくさんあるだけに、プロもやりにくい時代だろう。これくらいのひねった変化球を見せておかないと。

小さな個人の人生を繊細に描く

偶然に見た次のページが、より素直にすとんと落ちて一番、よかった。

【書評】カズオ・イシグロ:夜想曲集/江南亜美子 【Book Japan】

冒頭の『わたしを離さないで』の衝撃の薄れていないことから「そうそう・・・」と頷け、「さて、そんな長篇作家が、軽やかながらどこかほの哀しい短篇集を発表した。」と非常に自然で分かりやすい紹介の仕方だ。

これまで長編で見せてきた[大きな物語の枠組み]をいわば封印して、小さな個人の人生を繊細に描き出したのが、この作品集である。


(とりわけイシグロの)長篇の魅力が、そこに登場する人物たちのホール・オブ・ライフをじゅうぜんに提示してみせることだとしたら、短篇の魅力とは、そこに書かれていない残りの時間を読者に想像させることにあるのだろう。いわば、残響の効果を狙うのだ。

変に穿った見方をせず、自然にストレートに捉えつつも評者なりのポイントははずしていない。江南氏というこの評者、35歳くらいとイシグロ作品の滋味をかみしめるにはまだ若いと思えるのだけれど、なかなか立派で素晴らしい。


 

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