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降っても晴れても
音楽と夕暮れをめぐる五つの物語
このところ続けて読んでいるイシグロの初期作品。残すは傑作の評高い「日の名残り」のみ。一応、そちらを手元に確保しておいて、出たばかりの新作「夜想曲集」を先に手にしてみた。今日、読んだのは連作短編という5つの最初の2編。
刊行されたものとしては初の短編集ということで、これまでのイシグロ・ワールドとは趣がだいぶ違っている。従来のイシグロらしさを期待して読むと肩透かしを食ったような、「ふつうな」感じ。
従来作は最初、物語の中に入ってゆくのに身構えさせる重たい扉のようなものがあったのだけれど、それは重厚なテーマをじっくり追える長編だからこそ。今度のは一転、短編に求められる回転の速さというか、すぐに心を掴ませる術もやはり、さすがと思わせる。
「音楽と夕暮れ」とサブタイトルにあるように、人生の黄昏を、愛の終わりを、音楽にからめて、音楽の中で描いている。音楽とは記憶であり、回想であり・・・なところがいつものイシグロらしさというところかな。
普通な、と書いたけれど、音楽を解さない僕であるけれど、これはこれでズシン! とくる長編の感動とはまた違う、ほんわかとした感動、余韻がいい。
2編目の「降っても晴れても」は、かつての学生時代の仲間との再会ストーリー。ともによく知る友人夫婦の2人が倦怠期を迎え危機に瀕しているのを救う役目に・・・というのはいかにもよくある小説のパターンであり、現実世界でも多いことであり。ほとんどギャグとして声を上げて笑える展開にイシグロの今まで見せなかったユニークさが炸裂している。ちょうど村上春樹のエッセイにみられるような。「July,July 世界のすべての7月」にも通じるところがある。
残る3編も楽しみに読みたい。
これはサラ・ボーンの≪パリの四月≫。クリフォード・ブラウンのトランペットで歌った1954年バージョンだ。だから、長い。少なくとも八分間はつづく。ぼくにはそれが嬉しかった。この歌が終われば、ぼくらが踊ることはもうない。部屋に入ってキャセロールを食べる。そのあと、たぶん、エミリはぼくが日記帳にした仕打ちを思い、はてなと思い返し、結局、最初思っていたほど無害ないたずらではなかったことに気づいて、怒るかもしれない。ぼくに何がわかる。だが、少なくともあと数分間、ぼくらは安全だ。だから、二人は星空の下で踊りつづけた。
満足度:★★★★
2009-07-01









