鼠 鈴木商店焼打ち事件 - 1

城山三郎(2009年刊第41刷・文春文庫)

2010/06/06読了、2010/06/06メモ

ケタ外れの日本人

鼠―鈴木商店焼打ち事件 (文春文庫 し 2-1) (文庫)
鼠 鈴木商店焼打ち事件

「週刊エコノミスト」のGW合併号に「自伝・評伝24冊で再発見『ケタ外れの日本人』」なる読書特集が組まれた、その中の佐野眞一氏が担当する「実業家」中の一冊として勧められていたもの。

エコノミスト:5月4・11日号 - 毎日jp(毎日新聞)

【読書特集】自伝・評伝24冊で再発見「ケタ外れの日本人」

日本史の敗者(山内昌之)/実業家(佐野眞一)/近代の政治家(今谷明)/科学者(中野不二男)/文学者(北村薫)/奇人(長山靖生)/芸人(池内紀)

連休から読み始めてすぐに引き込まれたが、非常に読み応えある重厚な内容なので1ヶ月かかってようやく読了。佐野氏が勧めるだけあって、ノンフィクションとして、ドキュメンタリーとして描かれる人物と描く作者の双方から圧倒的迫力を受けながら読むことができた。

現代の人物には書くに値するだけの政治家や経済人がいないと佐野氏が嘆くように、まさしく最近、自分の読む現代の本も軽く薄いものばかりなのと好対照な重厚さが身体の芯に残る。

著者も作中人物も鬼気迫る執念、迫力

本書は大正期、名も無き商店を三井・三菱と並ぶ大商社に成長させた神戸を地盤とする「鈴木商店」大番頭金子直吉を描いたもの。

米の買い占めを噂され折から起こった米騒動の群衆の焼打ちにあった。米騒動といえば鈴木商店、庶民の怨恨から焼き打ちにあってやむなし──という世間一般の知識しか持たなかった、それ以上の興味を抱こうとしなかった著者だったが、潰れて四十年近くなお追慕され続ける、徳を偲ばれる経営者が、世間には悪のイメージをもたらしているのか疑念を抱くようになる。

鈴木商店だけを社会の諸悪の根源として、まさに国賊扱いにして徹底的に叩いた、当時の大阪朝日新聞。その執拗な攻撃、糾弾、民衆を扇動させたそれらの大部分が捏造であり、社会の公器としての使命を大きく離れていた事実。また鈴木商店よりも明らかに買占めを行っていた三井との確執や彼らと政権とのそれぞれの距離など、当時の真実が初めてあばかれる生々しさが興奮させる。

歴史から突き付けられた挑戦状

文部省助成を受けて仕上げられた米騒動の決定版であり最も権威あるとされる書についても著者は容赦なく疑問を突き付ける。その研究の憶測であり事実の誤認であり、拡大解釈であり、議論のすり替えであり・・・という論の貧しさを喝破してゆく。一体、そこまでに著者を駆り立てるものは何なのか。著者はいう。

不遜な歴史。歴史は、無数の異和感を歯牙にもかけず歩み去る。やがて、わたしたちはその異和感ごとアブクのように消え、歴史はより誇らしげに歩を進める──それが気に入らない。澄まし切っている歴史に、もし少しでも真実でないものを発見できるなら。その綻びが、ひっつかまえられるものなら。


歴史はいつも多寡をくくっている。


わたしは、いま、異和感の塊になる。その異和感で歴史に打ち当たろう。そして、一度でよいから、歴史に多寡をくくらすまい。

ノンフィクションであって、通説を前提とはしない、史実に挑戦してゆこうとするその著者の姿にまず胸を打たれ、のめり込んでゆく。これから探る人間の魅力を伝えようと思ったら、伝えるべき人間にもそれだけの努力、魅力がないといけないという確信を著者が持っているかのように。


 

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