「私の履歴書」鳥羽博道

鳥羽博道(2009年2月 日経新聞文化面)

2009/02/28読了、2009/03/01メモ

叩き上げ人生の迫力

日経新聞最終頁文化面に毎月、筆者を代えて連載される「私の履歴書」は、功成り名を遂げた各界の著名人が自らの半生を語って非常に人気あるコーナー。政治家、学者、実業家、文化人・・・ここに登場するのは人生晩年、最高で最後の栄誉といっていいほどのものだろう。

例年、トップバッターとなる1月は中でも大物が起用される。今年はハワード・ベーカー前駐日米大使。ウォーターゲート事件の真相やニクソン、レーガン、ブッシュ父・・・等との関係が明らかにされて興味深かった。

2月はただでさえ少ない日数の、新聞休刊日もあったから全27回。社にしてみれば、つなぎ的な意味で良かったのだろうが、ドトールコーヒー名誉会長の鳥羽博道氏は期待を大きく上回って読み応えのあるものだった。今日3月からは女優の香川京子氏。

ちなみに昨年12月は経済学者の小宮隆太郎氏。つまらないから読み止めたことも多々あるケースに比べるとまだマシかもしれないが、小宮氏のは読んでいてあまり快いものではなかった。

学者やエコノミストはそんなものなのかもしれないが、昔の自説、持論が支持されなかったことを執念深く恨み、実名を挙げて紙上で以前の論争に対する反駁を繰り返す。何というか傲岸、上から目線が強烈で、門下のゼミ生には日銀他で活躍する豪華な顔ぶれ・・・といった自慢話も鼻につく。住んでいる世界が違うなということだけが強く実感させられた。

そういうケースもあるだけに、鳥羽氏の高校を中退してからの刻苦精励な働きぶりでステップを上がってゆく、まさに叩き上げ人生の成功ストーリーは心に迫るものがあった。学者の机上の論と、実世界の苦労話とではまるで迫力が違う。

騙されて恨まず、成功して決して驕らず

回を追うごとに手に汗握るような熱い内容で、久しぶりに感動させられた。もう一度、再読しようと紐で括っていた古新聞類をほどいて切り抜いたほど(残念ながら初回数回分が既に先月の古紙回収日にさらわれてしまっていた・・・)。

ネットで検索してみると分かると思う、反響は非常に大きいよう(僕がそうだったように、多分、2月のドトールの売り上げに大きく寄与したはずだ)。勤勉さが何より日本人の好むところなのだろう。教訓的なところがいやという人もいるかもしれないが、忘れてはいけない大切なことが多い。余裕あればもう一、二回、触れてみたい。

会社を設立して2年、喫茶店資金700万円を騙し取られた時のこと──

私は自暴自棄に陥り自分を騙した相手はもちろん、若い弁護士も恨んだ。ところが恨みつらみの日々を過ごすうちに、私は自分の心がすっかりすさんでいる事に気づいた。


これはいけない。もうこれ以上、人を憎むのは止めよう。人を騙す事が出来るのはその人の生い立ちが悪かったからだ。そうでなければそんな事は出来ない筈だ。


ただ、騙した人間の人生が良くなって、騙された人間の人生が悪くなるのでは世の中の道理が通らない。道理の通らない世の中なら生きているわけにはいかない。それならば、この世の中で道理を通す為には自分がなにがなんでも成功しなければならない。


そして、どこかで私を騙した人物に会った時、心から「お元気ですか」と言える自分になろう。もし元気でなければ助けてあげよう。助けて上げた時、相手が真に人間としての心を取り戻せる筈だ。そう気持ちを切り替えた。


私はこの一件で、どんなにうまくいっている時でも決して驕ってはならないと悟った。これ以来、ちょっと自分が思い上がりそうになると「また落ちるぞ」という声が聞こえるようになった。


また、世間の大人が本当に偉く見えてきた。大人というものは、自分に降りかかる火の粉を未然に振り払う知恵を持っているものなのだと理解した。


2009/02/14 第13回


「私の履歴書」鳥羽博道
「私の履歴書」鳥羽博道

満足度:★★★★★


 

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