地下鉄(メトロ)に乗って

三十年

タイトルは何となく爽やかで軽そう ── なのだが、確かに地下鉄が終始、舞台になっているものの、モチーフはずっと重い中身。

冒頭からずっと暗い影に覆われているようなのは「地下」と「過去」とをつなげる作者の意図もあったのか、するりとその世界に引きずり込まれて、先の見えない暗がりに興味津々な不思議な感覚にさせて、繰り返される「三十年」には、今と昔とで三十年の軽重の差があるとは理解しつつ、ちょっと誇張(強調)の度が強いなと思いつつも、最初から最後までこれだけ面白く読めた小説も久しぶり。

内容は本当に小説らしい、フィクション(虚構)の最たるもの。地上だったらそうもいかなかったろう、人と空気と時代の運ばれ方が面白い。

喪われた時代の哀しみと安らぎは、永久にこの小さな地下の世界に封じ込められている。

(ちかてつ)、と胸の中に平仮名で書くと、おとぎ話のマッチのように哀しく暖かい灯が心にともった。

★★★★★


 

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