競争と公平感

大竹文雄(2010年刊中公新書)

2010/07/11読了、2011/01/11メモ

競争との付き合い方

競争と公平感―市場経済の本当のメリット (中公新書)
競争と公平感

昨年7月に読了していたが本棚に未収録のまま半年。前回、橘玲氏の本を読んでいる最中に本書のことを強く思い出させられていたのと、今日(1/17)の日経「経済教室」が著者による「個人主義と経済の関係は? 豊かさとの相関強く」で本書の内容とも重なることから、ようやくの収録。

「格差」という言葉の登場に人々の関心が高まって経済学、社会学の面でも論じられることの多くなった分野。昨年の日経紙エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10の第3位になっている、今なお売れ続けているように、本書は名うての経済学者が一般読者向けの新書という媒体で、豊富な事例を利用しながら市場競争とのより良い付き合い方を分かりやすく真摯に説いた良書。

関心の高さ、裏返せば不安と不満の広がる社会の仕組みに歪みや問題のあることは分かっていても、その解消は難しい。一筋縄ではゆかない問題に、価値観の問題も絡むから人の数ほど考え方があって議論がかまびすしい。

卑近な例でいうと、例えば映画や各種サービスや、のレディースデー、レディース割引を「不公平」と感じる男性が若年層ほど高い、というアンケート結果が数日前の日経にも載っていた。総務省の調査で30歳未満の女性の可処分所得が初めて男性を上回った、というのにも合致する、いかにも今時のデータだが、「平等」と「公平」は違うことを承知でなお、「公平」というのも言い出せば際限がない。一体、何が「公平」なのか。公平はありうるのか。

著者の主張は、サブタイトルの「市場経済の本当のメリット」に表れているとおり、競争のデメリットも理解した上で、なお競争のメリットの方が大きい、ということ。競争原理のうまく働く市場経済によって私たちは豊かになれるのだということが本書中、何度も繰り返されている。徒に競争社会への拒否反応をおこすのでなく、社会がメリットを自らにいいきかせる姿勢、努力を持ち、競争との付き合い方を身に付けるべき、と。

これもまだ経済学者にしてはオブラートな主張の方で、通常ならもっとシビアに競争が推奨される。また先日の「経済教室」の論者はマネックスグループ社長の松本大氏で、競争のなさ、競争意識の低さゆえの日本の学生の甘さを指摘していた。この人のエリート意識強い発言が僕は普段から好きじゃないが、論はもっともでも必ずしも共感できない。いずれにしても経営者や学者や、の社会的に成功した、環境や運に恵まれていた人の立場でいえること。

不公平は前提

これも本著独自の見解というのではなく、既説であり定説であり、なのだが、本文中、繰り返されていることで僕自身の立場で個人的にあらためて身に沁みた2件。

技術革新は、長時間労働や体力を要求する仕事から、対人能力、文章表現能力、技術力、データ解析能力、創造的能力などを要求する仕事に、仕事の中身を変えてきた。


アイディアを考えたり、データから判断したり、人とコミュニケーションをとったりする仕事で・・・

対人能力やコミュニケーション能力がより重要視される昨今、きこえない者にとって職業選択の制約や参入障壁の高さが過去の時代に比べても増してきている。格差の拡大同様、きこえない(きこえにくい)というハンデ、不利益は、経済活動に参画する(仕事を通じて社会に関係する)とき一層、大きくなってきている。

もう一点は教育の大切さ、貧困対策における教育訓練の重要さ。

これも異論を挟む余地無い定説なのだが、きこえない者にとって学校教育を終えた後の教育や研修の機会は少ない。現場で仕事を教わるのも研修を受講するのも全てが口頭でなされるとき、より高度なスキルが身振りで伝わろうはずはない、簡単な筆談や・・・で伝えられるには大きな限度がある。聴者なら興味のおもむくまま、積極的に出かけてきける講演や学べる講義や・・・といったものにも縁遠い。

僕自身、スキルアップやキャリアアップ、アップ(上昇)の機会は全くなく、周囲に比べてどんどん差が開いている、周回遅れの増すばかりであることを痛切に味わっている。ハンデがあるから人一倍、頑張らねばいけない、という文句は精神論的には有効でも、会社組織等で一般の社員に用意される研修や教育を全て個人でまかなうならその費用もエネルギーも莫大だ。

普段、得られる情報がないからこそ余計に重要な教育訓練、職業訓練のはずが、コミュニケーション、伝達手段に難ある身ではスタートに立っていない、入口にたどりついてない。あとがきで著者はバンクーバー五輪のフィギュアスケートを例に、採点基準やルールに曖昧さがあっても、その中で対応すること、戦略の大切さを繰り返しているが、そもそもリンクに入れない、スケート靴を持たないで観戦しているだけの現状である。

正直なところ、僕は競争に参加しようにもスタートに付けない蚊帳の外、と感じることも大きい。このあたりはもう努力や教育や、でないこともよく分かっている。いずれにしても、独自の戦略、ということになる。

満足度:★★★★★


 

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