櫛挽道守

櫛というものの奥深さ

間も無く年の瀬。この一年も振り返ると数少ない読書かつ偏りがちになっている中での木内作品。

山々に阻まれた木曽の地で櫛挽職人を目指す少女の物語。実際に地味で狭くてということを作中人物にも語らせているような普通に人が興味を抱く内容でもない。例により冒頭しばらくはとっつきにくく気の早い人は数頁で投げ出すかもしれない、でもそういうことを意に介さず人に媚びず、自分の書きたいことをマイペースで書くのが著者。

2年以上も続くとは思わなかった、日経月イチ連載「ヒロインは強し」のフィクション版といえるような内容。著者の小説はいつも趣は変えてもつくりだす作中人物に共感させられるところ大であるがゆえのファンなのだが、今回は読んできた中でもいちばん著者自身の投影度合が大きいのではないかと思う。

幕末の激動期、古い地の因習や時世をからめて女子の幸せとはと絶えず問わせつつ、女であれ男であれ、変わるもの変えるもの守るもの…の家族五人をはじめその周辺も含めた多彩な登場人物を借りての描写がいつもながらに見事。「新選組 幕末の青嵐」のときからそうだが、群像劇というか、ひとりひとりの描き方、丁寧な描き分けが上手くて、主人公だけでなくいろんな人物に感情移入できる。

伏線の張り方もうまくてラストは少々まとまり過ぎかなという気もするが、この人のはストーリー展開というより一瞬の機微を掬い、また語らせる言葉に唸らされることの方に自分は興を感じる。最初、何がなんだかな不可思議な雰囲気が、気がつくと時代も土地も縁遠いはずの世界に入ってしまっている点も。

なんとなく引っかかっていた、読み進んでしばらくして気付いたのだが、そういえばここに描かれている藪原という地は、昔、信州を自転車で旅行したときの確かニ、三日目に通過したところで、物語にも出てくるその前後、奈良井、宮ノ越の辺りの駅舎で当時、一夜を明かしたと思う。確かに山、山、山な行路だった。

18歳の夏休み

幸せの形は人それぞれあっていいはずだけれど、女の幸せはみな同じ形であらねばならないのかもしれない。いい家に嫁いで、立派な跡取りを産むことだ。

登勢は、自分にとってなにが幸せかをずっと前から知っている。けれどそれはけっして女の幸せとは言えず、だからこそ常に歪んだ道を釈然とせぬままに歩かねばならなかったのだ。

★★★★★


 

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