独りでいるより優しくて

ただすごい。

4ヶ月、借りては返し、を続けてひととおり読み終えていたもの。病室での再読は一日で一気に。

人の心理や感情を解剖して整理したらこんな風になるのか、と思わせるようなおそろしいまでの観察力と心理描写。怜悧、冷徹、残酷、悲痛…陳腐ながらも形容するならそんな緊張感をずっとまとって物語が進む。訳者あとがきに引かれた「顔をそむけないことで見えるつらい真実が好きなのだと思う」著者の言葉に納得。

著者の作品は5年前に読んだ短編集「千年の祈り」に感動して以来だが、訳者もこれまでのイメージを覆すような、と述べているとおりに、既に充分に感動しているレベルのそのまた遥か上の域、もうこれ以上のものがあるだろうかと思えるような、完全感をしきりに思う。

訳はとてもこなれていて翻訳ということを意識させない。原文も訳者の技量もともにすごいのだろうことがひしと伝わる。それでも初読が読みづらいのは、ミステリー要素をはらんだストーリーの現在と過去が行き来して進行すること、また、とにかく一文の伝えようとする意味の量、質がとても重いから。

隠喩の多彩さ豊かさに驚く。揺れ動く心理、移ろう季節、時間や場所や記憶やの描写に郷愁が漂う。また、読んでいると時に村上春樹に受けているのだろう影響や、女のおぞましく超然な姿に角田光代やが想起される。先駆者という点ではもちろん村上春樹の世界中の作家に与えた影響力のすごさを思うし、僕自身、30年近く前からしばらくは憑かれていたのだけれど、今ではもう個人的には完全にリーの方が超越している。角田さんも同じく。本当にそれくらい、次が心配なほどのグレード。

痛切さという点では「二十歳の原点」も。そんな物語も滅多にない。

初読のときからおそろしい内容だなとは思っていたが、単純に感動するという類の本ではないし、読みやすい、分かりやすい、はなく有益さも多分、全然ない。再読の労に値する意義も見出しにくいと思っていたが、どうしても引っかかる、未消化感が強いだけに落ち着いて読み直せた ーー というより、やっと何とか向き合えたかなと思えたのはよかった。

神は黙然(モーラン)と泊陽(ボーヤン)に慈悲をかけるべきだった。ずっと前に少艾(シャオアイ)を死なせるべきだった。神は希望的観測から気ままに考えを変え、ささいな物事を調整するのだが、脚本 ーー 何もかも見通す目に作者がたたられている脚本すべて ーー の修正をしても、結局はほとんど満足がいかないのにちがいない。そのせいで神は孤独どころか、顧みられなくなったような気持ちになるのだろうか、それとも退屈するのか。そして退屈な状態に激怒するのか。

★★★★★


 

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