漂砂のうたう 時代の奔流に抗い

木内 昇(集英社)

2013/11/07読了、2013/11/10メモ

降りそそぐのは、絶望の雨か、かすかな希望の光か

漂砂のうたう

漂砂のうたう
著者:木内昇
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エントリにもした昨年度末日経の日曜文化面で著者のことを同年生まれと知ってから興味を持っての2冊目。深く切なく沁み入ってとても良かった。

図書館で二度、借りた(あまり人気のない)時は冒頭部が何だか無味乾燥に思えて入り込めず、その関を越えられなかったのだけれど、ユーズド購入後に腰を落ち着けて読んでみると、しっかりと絡め取られてしまった。

帯のキャッチは

明治十年、根津遊廓。維新から取り残された男と女が求めたものは──

ということで、時代背景も箱庭のような特殊な世界も本当に綿密に調べ上げられていて、それを知ってゆくだけで面白い。筋を追ってさっと読み進める類でなく、一頁ごとにどっぷりとその世界に浸る贅を味わい付くしたい思いが強い。その上で、時代と環境に翻弄された、というと決まり文句であるが、揺れ動く心情や、その翻弄されぶりを、なぜに翻弄されずにいれるのかという人物らと対比させてるところが巧い。

主人公の心情に沿って読んでいくと、中盤、終盤と読み進めるにつれて、意外にたくさん出てくる登場人物のそれぞれにも滲み出てくる生命力に気付き、最後までストーリーに向かう楽しさを満喫させてもらった。

最初に読んだ「茗荷谷の猫」同様、著者の描くところはちょっと不思議なところがあって、単純におすすめはできない。人気があるわけでは決してなく、人によって分かれるという以上に、好む人は限られるだろうなと思う。以前、カズオ・イシグロの「わたしたちが孤児だったころ」や「わたしを離さないで」でも書いたように、陽の当たる道を苦労なく歩いている人、歩いていてそうだとも気付かない、本作では何度も主人公に口にさせている谷底というように、そんなところに思いをはせられない人には分からないだろう世界。

僕にとっては、新聞の記事を読んだときから思いを寄せた、期待したとおりに当たりな人で、そういえば、最近ではそういう具合に、著者の感性というか視線の先にあるものに共感できて追いたいと思えるのはカズオ・イシグロ以来で、今後も楽しみにしてみたい。

「己の力ではどうにもできないときがある、って言ったんだよ、あの人が。どんなに力ぁ振り絞っても、うまくないときもある。そういうときはね、修行だと思って耐えてみるのがいいってさ」

「耐えるだけじゃあなく、受け入れちまやぁ、こっちの勝ちだって言ってたさ」「そうだねぇ。確かにたやすくはないかもしれないねぇ。わちきも、前借金を返すまで意地でも働いてやると覚悟を決めてここへ来たけど、嫌気が差すことぁあったかもしれないね。でもね、ここで学んだこともありましたよ、ずいぶんとたくさんね」

行く道に道標はなく(2013年3月31日 日経新聞文化面 木内昇)

満足度:★★★★★


 

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