ひそやかな花園

角田光代(2010年刊毎日新聞社)

2010/11/18読了、2010/11/18メモ

次第に崇拝化

ひそやかな花園
ひそやかな花園

毎日新聞日曜別刷り紙面の連載小説、今、篠田節子氏の『銀婚式』を毎週楽しみにしている、とだいぶ前にエントリした。これはその一つ前、昨年4月から1年間連載されていたもの。

確かプロローグは読んだのと、その後も何度かトライしたのだけれど、タイトルが乙女チックだし、内容も子どもや若い人の何だか秘密の世界の、閉じこめられた暗い雰囲気に入ってゆけなかった。当時はその後TVドラマにもなった『八日目の蝉』のみを読んだくらいで、まだ角田さんに対する印象があまり良くなかった、で興味わかずじまいのまま連載は終わった。

誕生日が18日しか違わない同い年作家の、でも僕はどちらかというと絲山秋子の方が好きだな、とこれもエントリしていたけれど、その後、『森に眠る魚』を読んで、やはりこの人、ただ者ではないなと遅ればせながら気付かされた。本作も連載時は読めなかったけれど、単行本化後の日経の書評欄がひどくそそる書き方をしていたので図書館で借りてみた。

期待を裏切ることのない面白さ。今でも好き、という作家ではない、積極的に近付きたいというより、その才能が凄すぎて遠くから崇拝していたいような具合。

止められない魔力

予約時点では数十人待ちの「これは年内は無理かな」と思ったら予想以上に早く順番が回ってきた。元々、角田作品を楽しみにする図書館ユーザーは本好きな方だろうし、何よりこの作品が「読み始めたら止められない」魔力を持っているゆえということが僕にもよく分かった。貸出期間は最大15日ということになってはいるものの、きっと、1~数日で5冊がフル回転しているのだろう。かなり回転のいい作品のはず。ちなみに時同じくして申し込んだ絲山さんの新作は、こちらも順番待ちと5冊所蔵は同じでも、未だ回ってこない。

連載当時、何度か割り込もうと試みてうまくゆかなかった訳も分かる。新聞の連載小説は途中から読み始めてもある程度それなりの面白さが得られるようなものが本来、ではあろうけれど、この作品は毎週、脇に掲載される「これまでのあらすじ」が要約されたくらいでは飛び込み客を寄せ付けないような、最初から猛速度で突っ走っているような勢いがある。途中に安易に乗れるものでもないし、一度、乗ったら降りることのありえない流れだ。

内容はもう既に色んなところで語られているはずの、僕は書評を読んだくらいで、これからブログ等で語られているような個人評を楽しみに探してみようと思っているところだけれど、僕などがいうまでもなく『森に眠る魚』の今度は立場を親から子どもの視線に置き換えて、といったところであり、また花園にたとえられる特殊な空間が『八日目の蝉』に連なるところでもあり。偶然にも僕は数多くの角田作品からこの3作のみを読んだことになる。

3日前に未来が見えない閉塞感 でエントリしたように最後までカズオ・イシグロの最高傑作と思い比べもしていた。比べられるものでもないが、最初、ミステリー仕掛けの設定で引き込み、後、その仕組みの明らかになった後も一体、どこに連れて行かれるのだろう、という恐怖の入り交じる期待を持たせ続ける手法。

いつものことながら多彩な登場人物の書き分けが見事。7人の子どもがいれば7色を巧く描き分けて、かつどれかに集約されることなくどこまでもパラレルに描き続ける。

先の2作も含め、母であること、子どものこと・・・の普通、語られることのない、いずれも表向きは幸せな当たり障りのない言葉でごまかされる闇の部分をいつもえぐり取って日に曝すようなところが、まさに作者自身、当事者の世代として、かつまたあらゆる立場から表現できるところが小説の内容も怖いが、作者も怖い。陳腐な例えで申し訳ないが、隣り合わせだからよく分かるのだけれど、魚座の女性って芸術の才能、感性がとても鋭敏。

最後はちょっとうまくまとまりすぎている。そのまとめ方が本筋とは直接に関係ないようなところが、それでも何かしら救いのあるエンドにするのがいいのか、それとも無慈悲に突き放したままが小説として求められるべきなのか、賛否分かれるといったところだろうか。

私が成長し、恋をし、仕事をし、結婚し、今に至るまで、ずっとこの山荘はここにあったのだと、はじめて知ることのように樹里は思う。静かに、ひそやかに、子どもたちの笑い声を吸い込んだまま。まるで、海に沈んだ花畑のようだ。ここではいっさいの音のない、枯れることも散ることもない花々が色とりどりに揺れている。キャンプが終わって、私たちはばらばらの人生を歩き出したと樹里はずっと思っていた。キャンプのことは、いくつかの通過した記憶とおなじに、遠のき色あせいつか消えてしまうのだろうと。彼らと再会したのちですらも、そう思っていた。でも、私たちはそれぞれの場所で暮らしながら、今までも、これからも、たとえ会わなくなったとしても、ずっとこの花畑を等しく持ち続け得ているのかもしれない。いつでも帰れる秘密の場所として。

満足度:★★★★


 

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 comment
  1. 藍色 より:

    こんにちは。同じ本の感想記事を
    トラックバックさせていただきました。
    この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
    お気軽にどうぞ。

  2. より:

    不在後、更新せずにいたので遅れてすみませんでした。
    コメントとTBありがとうございます。
    藍色さんのレビュー、興味深く考えさせられました。

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