破獄

容易ならざる特定不良囚

3月に読んだ、とても面白かった小説。4月以降の忙しさにブログ更新できぬままだったが、変な意味でタイムリーに4月に松山刑務所からの脱獄、それが逮捕されたと思ったら、今度は8月に大阪府警富田林署面会室からの脱走が未解決、と耳目を集める事件が続く。

開放的処遇施設、松山刑務所は塀のない刑務所というのがどう影響したのかは分からないが、その後、3週間も包囲網をかいくぐった頭脳、身体能力の高さは、尊敬してはいけないだろうが、素直に驚嘆させられる。この小説を読んだ直後だっただけに、そういう特殊な能力を持って遺憾なく発揮する人間はいるものだなと興奮させられた。

作品の方は小説、とはいうものの、実際の脱獄囚と警察官をモデルに吉村昭氏が戦前戦後の時代背景とともに丹念に取材した力編。読んでいる最中はほとんど、ノンフィクションに感じられる。長期刑囚を収容して二十七年間無事故を誇った網走刑務所を含め青森、秋田、札幌の4刑務所を脱獄した無期刑囚と彼をとりまく警官、刑務官らの息詰まるせめぎ合い。緊迫感の中に刻まれる人間の情、の丁寧さに最後まで引き込まれる。

かれは、自分の内部に佐久間に対する畏敬に似た感情がきざしていることに気づき、狼狽した。佐久間は、学歴などもなく外観的には鈍重な男にみえる。これに対して、十分な教育と経験をそなえた刑務所の幹部や老練な看守たちが、あらゆる対策をねって逃走を阻止しようとつとめてきたのに、かれは意表をついて脱獄する。明治以来、破獄をはたした者は多いが、佐久間のように緻密な計画性と大胆な行動力をそなえた男は皆無であった。

準強盗致死の罪で無期刑囚に処せられたのが悲劇というべきで、かれの人間としての能力は、破獄にのみ集中されている。もしもその比類ない能力が他の面に発揮されれば、意義のあることをなしとげたにちがいない。かれが悲運な男にも思えた。

★★★★★

余録:今年3月18日の読売駅伝(郡市対抗)のスタートとなる萩へ、土曜に所用あった自分のみチームとは遅れて山口から向かうバスの道中にしたもの。新山口駅前のコンビニはそれなりに本が売られているのはいいのだが、ライトノベルなものばかり。── の中、わずかながらの良書として氏の作品のあったのが救い。道中は翌日駅伝のコースの下見にもなるはずだったが、そんなことより読み始めるや面白さに夢中にさせられて萩までの時間が短いくらいだった。


 

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