不動心

松井秀喜(2007年刊 新潮新書)

2007/03/03読了、2007/03/04メモ

言葉の返礼

読書が一番、はかどるのは旅の移動時、道中。ただ、ここ一年、国内を移動するような旅行、出張の類がまるでない。読書の量の少ない原因でもある。久しぶりの新幹線利用は一年前の日本海マラソン以来。びわ湖毎日マラソンに向かう道中、乗り換えの新大阪駅で購入してすぐに読了した。

レースに向かう途中であるから、内容はあまりシリアス過ぎても集中できない。これなら軽く読めて、かつ、勝負の世界にいる一線の選手の心情が分かって、でちょうどいい選択であった。

一流選手が現役のままで本を出すことはあまり多くないと思う。特に松井のように、くそ真面目な、プレーで結果を出すことが全てと考えているようなタイプにあっては尚更。スポーツライターが勝手に書いた「松井本」は世に多いけれど、松井自身が、なぜ本を書く気になったのか、その心境をまず知りたかった。

おおかたの想像どおり、「あの日」のケガ、手首骨折が大きな動機となっている。野球人生で初めてといっていいほどの大きなアクシデント、挫折。そのケガを乗り越えようと、あの日の事故を恨まず、「骨折してよかった」と思えるように必ずや復活してやる、という強い意思表明の場としての選択であった。

ファンからもらった手紙やメールに励まされた、言葉に大きな力のあることを痛感した。そのお礼に、自分も「言葉」を送りたい、と。自らに誓うだけでは足りず、「出版」という手段をとることでさらに自分を追い込もうとしたのに違いない。

努力できることが才能である

内容は松井らしいマジメさそのもの。普段の言動同様、新庄や清原や・・・といったショーマン的な面白さは本書にもない。野球選手の中でも、ひたすら地道に努力を続けるマラソンランナー的タイプ。

「びわ湖」の会場に向かう途中でなお、走るかどうか迷っていた、決心の定まらなかった自分にとって、この本が大きく力付けてくれた。

また、松井が自分のプレーで見ている人に力を与えられるように、励みになるように、と心がけている点にも心を動かされた。僕自身はプロ選手ではないし、誰かに力を与える、なんて自分でいうのは思い上がっているようなことと思えていた。でも、難しく考えることはなく、普段、プロでも有名でもない人から僕自身が力をもらっている、勇気付けられているように、逆ができればそれでいい。自分の知らないところでそうなっていてもいいし、意識することで自分のモチベーションにもなれば、なおいい。

感情を露わにしないことに対して、松井が自身でも信条を述べて説明している。テレビに登場するプロ選手としては物足りないと周囲は思うが、プロ根性に徹しているからこそ。どこまでもこの真面目なスタイルは称えられていい。当たり前のことを疎かにしない、努力の大切さを平易に説いているだけに、小学生・中学生らに勧められる本である。

いつか現役を引退するとき、左手首を見つめて「おい、あのとき骨折してよかったよなあ」と語りかけてやりたい。そう言える日がくるかどうかは、これからの自分自身にかかっているわけです。間違っても、「あのとき骨折さえしなければ……」と振り返るような野球人生だけは送りたくありません。

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当の松井は本書で宣言したとおりに、昨シーズン終盤の復調、そして今シーズンのオープン戦と、ケガの後遺症を思わせない好調ぶりを見せている。

・・・と思っていたところに、今度は桑田が開幕直前にして右足首捻挫で全治6週間という。松井のケースとはまた異なり、メジャーでの実績がまだ無く、必死に舞台を目指していた、そしてつかみかけていたところだっただけに松井以上につらいものはあるだろう。

それでも驚いたのが、ケガの判明後のインタビューでは落ち込むことなく、治療後の再挑戦を誓っていたこと。桑田も松井同様に努力の人。清原や松井のような恵まれた体格を持たないだけに、松井以上に努力と工夫で生きてきた選手。一番不利な日の早生まれでもあるし・・・。

「野球も人生も一緒。何が起こるか分からない。これをプラスに変えていくことが大事。何とか、もうひと踏ん張りしたい。」

松井のプロ根性に敬服すると同時に、桑田の「何とか、もうひと花」、再起を強く期待したい。



 

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