孤独の向こう側へ

訳者あとがき

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A Free Life

タイトルにされたあとがきがまた一つの作品として素晴らしい。

長い長い物語を読み終えた読者が鎮められない感動に浸っているとき、訳者が静かに来し方を整理して振り返らせてくれるような、訳者と感動を語り合う、共有し合う余韻の時間を持たせてくれる。

著者の紹介、翻訳に当たっての苦労や事情などの打ち明け話に加え、訳者自身の若い頃の体験が挿話として紹介されているのも面白かった。

この作品を読み始めてすぐ、中国人が英語を話している事情をフォントの違いやカタカナの利用で表現しようとしているのが分かったけれど、よく事情がのみこめた。訳者は自身でもエッセイや小説や、を発表するだけあって、翻訳ものにありがちな違和感が全くなく最後まで一気に読ませてくれたのも訳者の力量ということがあらためてうなずける。

独りを受け入れる -- 蘇武のような

あとがきのタイトルにされているように、作品の中でも「孤独」を怖れず引き受けてゆくということが度々、登場して、主人公の、とりもなおさず著者の姿勢がよく伝わってきていた。

母国から絶縁を突きつけられた形で異国で生きてゆこうとするとき、同じ同胞の民族で身を寄せ合うことを必ずしも是とせず、どこまでも自身の生き方に忠実にあろうとする主人公。

中国のコミュニティに限定されず、といってアメリカに同化するのでもなく、敵は多く「自分が思い切り嫌われている」ことを覚悟でも信念を曲げずに自分の足で自分の立場を築こうとする生き方。

そうでありながらも主人公は友人に恵まれている。それは主人公の志した詩作の中でも表現されているが、ライバルの立場にある友人らに姑息さや利害心が見えてもそれを誹らず、妬まず、僻まず、成功を心から祝福できる度量が備わっているゆえ。自身の生き方には何ら動揺を受けない強い心の持ち主であるがゆえ。

ここまで高潔な生き方は難しい、むしろ主人公を取り巻く周囲の方が普通であり世俗的である。ちょうど同じ中国だから、というのではないが僕には『李陵』の中の蘇武の生き方が想起させられた。

孤独怖れる時代に

一方で、本書が「今週の本棚」に紹介された同じ毎日新聞10月31日紙面の識者コラム「時代の風」で今の学生が極度に孤独をおそれることが指摘されていた。

時代の風:孤独恐れる時代に=東京大教授・加藤陽子 - 毎日jp

また同じく翌日11月1日の日経ビジネスオンラインの記事にも。

「友達がいなさそう」が罵倒の文句になる理由:日経ビジネスオンライン

若い人には──あるいは若い人だけにとどまらず──気を遣うことの多い時代。友達がいそう、いなさそう、という「周囲からの見え方、思われ方」に腐心しないといけない。今はとかくサークル化し「仲間」賛美化される時代。ミクシィでもツィッターでもつながり合い、コメント返しとペタ返しはすみやかに。

忙しく疲れる時代だけに、媚びず阿らず、他人の評価や他人からの見え方でなく、あくまで自らの決心した生き方を、たとえ孤独を引き受けてでも貫こうとする姿勢が現代人の心を打つ。

アメリカという国で英語で生きるとはどのようなことなのか、祖国の中国を嫌悪してやまない彼は、その影を自分のなかから必死で振り払いながら、真に自分であること、個人であることの模索を開始する。


この言葉で書くということは 孤独(alone)であるということ

その孤独からやがて寂しさ(loneliness)さえ消えてゆき

ひとりであること(solitude)の縁に生きるということ


本書『自由生活』は、アメリカという異国で孤独と孤立感に苛まれながらも、苦悶と苦闘の末にそれを個人の力で打破し、自分だけの地平を(たとえ人が評価しなくても)視界の中へ手に入れることの尊さを、もっとも大きなテーマとしている。人も羨むような成功を果たすのではなく、・・・

満足度:★★★★★


 

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