自由生活(上)

哈金(ハ・ジン)/駒沢敏器訳(2010年刊NHK出版)

2010/10/21読了、2010/10/22メモ

読み応えあり、期待以上の面白さ

自由生活 上
自由生活(上)

日経新聞の書評欄(10月10日)に掲載されていたのを読んで興味持ち、図書館で借りてみた。「千年の祈り」に続けての中国人作家作品。しかも作者はともに本国在住でなく在米であり、かつまた母語の中国語でなく英語での作品、というのも同じ。

そしてまた、これが続けて非常に素晴らしい。GDPで抜かれた上に、今後は現代文学までもがなぎ倒されてゆくのか・・・。悔しいが彼の国の力を認めざるを得ない。

先日の朝日新聞にも記者コラムで中国作品を続けて読んでいると女性記者が同じようなことを書かれていた。先の日経の書評中でも論者はやはり「千年の祈り」に言及されている。僕の関心もぐっとこの方面に吸い寄せられている。

今また、日中両国に軋轢が生じて緊張の高まっている中、僕が続けて手にした理由はそれとは全く無関係な、ただの偶然なのではあるが、それでもやはり、読みながら日中の関係について、中国人について色々と考えさせられるところはあった。ニュースになるのは一部の中国人。大国中国のほんの一面。

海外に住む中国人たちのあいだで有名な言葉を、ナンは思い出していた。「よその国の国民になって初めて、中国人はまともに中国人として扱われる」のだ。

TVの討論番組でもそんなことが言われていた。そして国家間のいがみ合いとは全く別に、芸術の感動は普遍的だ。

「千年の祈り」も「自由生活」も、ともに作者は米国にいて(国外に活動の場を求めて)言論の自由を確保できている身として中国の現体制に批判的である。その良識を備えているからこそ世界で高く評価されている内容である。

買うべきか、買わざるべきか

僕は「本は買って読め」というタイプなのでそう熱心に図書館を利用する方ではないが、今回の新刊はまだページのめくられた跡もない最初の借り手のようである。図書館のヘビーユーザーというわけでない僕に初めての出来事。嬉しいというようなものではないが、図書館の蔵書の第一読者になれるなんて、ちょっと光栄なのかも。しかもこれほど面白いのに、次の予約者はいない模様。

とにかく面白い。平日の就寝前に読み継ぎながら、450頁の分厚い上巻を5日で読み終えた。そして、これほど面白いと「手元に残しておきたい」というまた別の悩みが生じる。普通なら図書館で借りても面白いと分かればすぐに買って(切り替えて)読むことが多いのだが、何しろ今回は高い。(2600円+消費税)×上下2巻で合計5,460円。買いたいけどどうしよう・・・と思いつつ下巻も半分まで進んでしまった。

いつから小説がこんなに高くなったのか。大衆小説のレベルでないというのもあろうけれど、こう高いと買って読む人間は限られるだろう。「ぜひ多くの読者に手にとってもらいたい」という日経の書評者に僕も同感で、でも、この値段では掛け値無しの面白さが限定されそうでもったいない。

値段がネックで売れてないのか、ユーズドでさえまだ高値。ユーズドが廉価で入手できるまで、あるいは数年先に文庫化されるのを気長に待つしかないかなあ。小説にもためらいなくラインを引いてしまう自分には付箋を貼るしかないのがストレスだけれど、それでもこうして良書を無料で読める図書館に感謝。

中国版・ノルウェイの森?

まず装丁が。赤、青の原色にシンプルなタイトルは「ノルウェイの森」を思わせる。著者の意向というより版元の編集者の手によるものなのだろうけれど、意識してそうしたのかな? 下巻の方はタイトルが白抜きなので合わせればトリコロール。愛・平等・自由の表現か。

本書中にも下巻で少し出てくるが、上巻の赤(とタイトルの黒文字)は革命を想起させる色、下巻がそこから闘って獲得した自由、という意向が込められているのだろうか。それはそれで分かりやすい。

また、実際にも読んでいて村上春樹を思わせるものが確かにある。春樹作品のアジアでの支持は大きいというから、著者も影響を受けたろうか。特に初期の春樹作品のように、クールでいて強い意思を持ち続ける主人公の生き方が。

中国政府に睨まれてもはや帰国もできない、もはや嫌悪する母国を棄てて米国民になりきろうとしたいが、米国で味わう移民ならではの苦しみ、葛藤の数々。しかし元々がタフな世界の米国気質にもいい影響を受けて、主人公も様々な難関をくぐり抜けてゆく。

英語での作品であるからまずアメリカに評価されたのだろうけれど、主人公の生き方、考え方には春樹も示した、何と無しにアジア人ならではのものがあるように強く感じられた。移民としての立場上、どんなに努力してもアメリカ人にはなりきれない、また、アメリカの宗教や文化やにも全面的には染まれない、アメリカという国やネイティブにも受け入れられない、きっとアメリカよりも日本人の方が共感できるところは多いと思う。

満足度:★★★★★

考えれば考えるほど、怒りがこみ上げてきた。したい放題に痛手を与えてくる中国領事館に対して、なぜ無力であり続けなければいけないのか。ここまで残忍な国家に、それでも従順でいなければならないのか。国民をかくも犠牲にして苦しめ続けるというのなら、もはやそんな国など捨てたっていいじゃないか。できるだけ早いうちに、アメリカに帰化しなければと彼は思った。何としてでも中国という鞄を捨て、身軽になって旅を続けるべきだ。独立した人間にならなければいけない。


 

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