努力の天才 高橋尚子の基礎トレーニング

山内 武著 月刊陸上競技編集(2002年刊 出版芸術社)

2002.11.9読了 11.14メモ

期待して購入したが・・・

出版芸術社

本書は、高橋尚子の在学した大阪学院大学陸上部コーチによる、当時のトレーニング内容と競技会を通しての高橋尚子の成長が記されたものである。高橋の入学から卒業までの成長が順を追って説明される。また、巻末には、長谷川裕(龍谷大学)氏との共同研究による高橋のランニング・フォーム分析も付されている。

ちょうど今月初めに貧血が分かり一気に気分が落ち込んでしまった。まさにその時に、本書中に「貧血と体重増の二重苦」という章のあるのを知り、「彼女がどうやって克服したのだろうか? 指導者の目による過去の冷静な記述で多少でも僕の今のヒントになれば、得るものがあれば」という藁をもつかむ気持ちで刊行後間もない本書を購入してみたものである。

ベルリンマラソンを走る高橋尚子の姿を掲載した表紙の装丁は、とても美しく仕上がっている。中身の割付けも、一見して読みやすくきれいに仕上がっている。それだけで今、既に多く出回っている高橋尚子を取り扱った類書と異なり、きっと内容も抑制の効いたものと想像させるのだが、その期待は見事に裏切られる。

一言でいえば、高橋尚子を指導することができた得意話の披露に終わっている内容といって差し支えないだろうか。冒頭第1部の章だけを読んでも、著者の自慢話ばかりが鼻につく。本書の中には多くの在学中のスナップ写真が掲載されているが、「筆者の4年間の指導に対して感謝の言葉を述べた高橋」などのように、少々、唖然とさせられる表現も多い。

読了後、書店で『君ならできる』(小出義雄)を購入した。この本に触発されて、では決してなく、期待外れの失望感と物足りなさの気持ちを埋め合わせたくて、いわゆる「高橋尚子」本を読んでみたくなったのだ。『君ならできる』はシドニー・オリンピック直前に書き上げられ、刊行されて話題になった作品。当時は全く興味はなかったが、こんな形で読むことになろうとは・・・。その中でも、小出監督は、「この子はいい走りをしているのに何でこんな記録しかないのか。何とか育てたい」と感じたという。この表現に、また、こちらの作品中には山内氏に触れた箇所は全くないことに、小出監督の山内氏への評価がうかがえる。

掲載写真には価値あり

本書で有益なのは、大学時代のスナップ写真、競技写真が本文中に極めて多く掲載されていることの方。インカレや大学駅伝でトラックやロードを走る姿(これらは当然、プロの撮影だろう、とても美しい)、また、陸上部員らとの談笑のシーンを目にすることができる。今の高橋尚子とは全く違い、当時は相当にふっくらしていたこと、長い髪のままで走っていたことなどが新鮮に映る。よくここまで写真を集めたものだと思う。編集に携わった月刊陸上競技社の協力もあったのだろう。写真を追うだけでも(あるいはその方が)、うっとりと見入ってしまう。大学時代の高橋尚子を知ることができる。Qちゃんファンならずとも、写真集・アルバム的な意味で大きな価値があるだろう。

河川敷でバーベキューをしている写真など、仲間が皆、無邪気な笑顔を示している中で、Qちゃんだけは乗り切れないような、何か別のことを考えているような表情をしている。他の陸上部員は、大学生にとってそれが至極当然の、飲み会やレジャーの場の盛り上がりに浮かれて騒ぐような悩みや深い考えもない笑いなのだが、Qちゃんにはやはり、どこかで彼ら通常の大学生とは違う、一線を画した部分が当時からあったのだろうと思えてくる。

満足度:写真集として★★★★


 

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