少年達よ、未来は

山口 瞳(新潮社)

1998.03.23読了 2006.04.15メモ

仰げば尊し

「少年達よ、未来は」(1970年刊新潮社)
1970年刊新潮社

最近、といってもかなり前になるが、感動した事柄2件。

日曜夜の人気番組、「行列のできる法律相談所」。4月9日の2時間枠スペシャルの後半で、淡路島の高校卒業式のことが放映されていた。法律とは全然、関係のない話なのだが、丸山弁護士に相談の手紙があったというきっかけであった。

高校の卒業式で、男子5人が、お世話になった先生に感謝の気持ちを示したいという。5人は、淡路島にある家政科高校に60年ぶり? に入学した男子生徒。先生は42年間、その高校一筋に勤め上げて、退職する被服担当の女の先生。

と、ここまで書き出しただけでも、見事に揃ったこの材料で充分、涙腺が・・・。

丸山弁護士のアドバイスは「歌を歌ってあげればいい」。さて、何を歌おう、ということで、男子が選んだのが「仰げば尊し」。退職する先生に、実質、女子校の中で陰の薄かった男子5人が最後に立ち上がった、という非常に感動的なストーリーだった。今時、珍しい純真な高校生だと思えた。

いや、どこの学校でも卒業式ならそのくらいはあるよ、という声もあるかもしれない。感動を増幅させたのは、この男子生徒が、番組が茶化すように、本当に「ダメダメな」5人であったこと。気が弱くて、自分の意見も言えず、ちょっとのことで泣いて、完全に女子の尻に敷かれている、おまえらそれでも男か? というような情けなさだった。5人の連名の手紙もヘタくそな字で、でも、今の時代に、高校生がメールじゃなくて、一生懸命、手紙に綴って何とかしたいと考えたこと、最後に勇気を振り絞って、男子の気概を見せてくれたことが新鮮だった(・・・でも、もちろん、女子生徒の現実的かつ強力なバックアップを得て)。

行列──、という超人気番組の中での企画モノと分かっていても、島の高校生、ずっと女子校だったろう家政科高校に唯一、入学した男子生徒5人、島の高校一筋に勤め上げた先生・・・と、今では考えにくい状況がこれでもかと組み合わされていただけに胸を打った。録画して就寝前に見ていた寝床の中で、大いに泣かされた。

チームメイト

もうひとつは、だいぶ、遡るが、センバツ高校野球の関西対早稲田実業。前日、延長15回を闘ってなお決着が付かず、史上2度目の引き分け再試合となった一戦である。

8回裏に関西が逆転ホームランで3-2とリードしたが、9回表、1死1塁からライト前に抜けた打球を右翼手が後逸してしまう間に、打者走者まで生還する、ランニングホームランの形になって早実が再逆転。

平日であるから、僕もライブで見ていたわけでない。この時も、布団の中で、スポーツニュースをはしごしているときに知ったことである。

見ると、ライトの選手が守備上で号泣している。実は、この時、まだ前後の状況を詳しく知らなかったが、TVカメラが映し出す、この画面に、僕も、突如、有無をいわさず泣かされた。ここには余計な企画もない、アナウンサーの余計な解説も僕の耳にきこえない、説明の字幕もない、ただひたすら事実の映像だけなのが強く僕の胸に突き刺さってきた。

決してまだ試合の終わっていない、守備の途中である。エラーをして頭が真っ白になる、というのなら分かる(僕もしょっちゅうであった)。試合後に泣くなら分かる。何より、この選手も、甲子園に出てくるような高校であるから、既に、選ばれ抜かれた高校生である。皆、顔も体格も大人以上に立派な、運動神経の抜群に優れた者が一番、集まる野球部の、そしてブロック大会を勝ち抜いた強い男のはずである。それが、甲子園のライトの芝の上で、カメラが向けられていることも、何も頭になく、ただ、人目をはばからずに泣き崩れている。

まだ、最終回、9回裏の攻撃が残っている。それでも、エラーをした瞬間に、もう負けが決まってしまったかのように号泣した、涙を抑えられなかった彼の心境を思う。ここまでやって来た努力、前日の延長15回・・・。1番打者として走攻守のセンスにも人一倍、優れていたろう。まさかの後逸も、もちろん、3塁に向かう1塁走者を刺殺しようとしての思い切ってのプレーだった。試合は9回裏、関西もさらに追いつめ、この選手にも打順が回ったが、結局、早実が抑えて逃げ切った。

ライトの彼は守備上で、ベンチに戻って、試合後、ずっと涙を流していた。そのいずれもで、チームメイトがかばうように寄り添っていた。ピンチで内野手がマウンドに集まり、投手を盛り立てるシーン、また、試合終了後、ベンチ裏で涙を流すシーンとも違った。試合中に泣き崩れる外野に選手が駆け寄って肩を叩いた、ベンチまで肩を抱いて帰った、プレー中で既に涙を抑えられなかった彼のあまりのひたむきさと、笑顔で慰めようとしたチームメイトの美しい姿。高校野球の長い歴史の中でも、そうあることでない、きっと、この先も強く記憶に残るシーンだろう。第4試合の、観客席もまばらな中、既に球場にはナイター照明が灯っていた。選手の姿が光の中に美しく照らし出されていた。

大学の野球部で僕は、一番、親しかった友のYを4年前に亡くした。在学中、「俺達も泣けるくらいの試合をしたいよな」と彼はいっていた。彼と十数年前の夏、甲子園に観戦に行ったことを思い出す。球児の打ち込む姿の純真さ、夢破れて流す涙の、けれどもすがすがしい美しさが、人の心を打つから、これからも僕は高校野球を見続けるだろうが、今では彼と語ることのできないのが淋しい。

第78回選抜高校野球大会 (MSN毎日インタラクティブ)

少年達よ、未来は

淡路島の高校では、「仰げば尊し」が、ここ10年、卒業式でも歌われていない、ということだった。全国的な事情のようである、今では、別の卒業式定番ソング、というのがあるらしいことは僕もきいていた。

それで、思い出したのが僕の大好きな、山口瞳氏の表題作(エッセイ)である。この中の一節に、

私は「あおげば尊し、わが師の恩」という卒業式の歌が好きだ。

とある。

この歌のなかのどの部分が一番すきかというと「身をたて、名をあげ、やよ、はげめよ」というところである。明治十七年の作だそうだが、ちょっと立身出世のにおいがする。競争の感じがする。しかし、そんなことを超越して、・・・

事実、本来2番のこの部分が特に、教育上よろしくないようで、たとえ教えられるにしても、2番はカットして、1番と3番のみであることが多いとか。いずれにしても、僕はもう「仰げば尊し」をきくこともない身であるから、余計に、あの番組に泣けたのかもしれない。

同じく山口氏は、高校野球も大好きだった。淡路島の高校生と、甲子園の球児と。僕には久しく離れていた感動であった。本当に純真な姿を見せてもらった。彼らの未来が輝くといいが。

満足度:★★★★★

私には実のところ、少年達が自分の未来像をどのように想定しているかということがわかりません。人によって千差万別でもあるでしょう。

しかし、私の経験からいうならば、ただひとつ、アセッテハイケナイということだけは言えると思うのです。焦る必要はない。・・・

人生は短い。あっというまに過ぎてゆく。しかし、いま目の前にいる電車にどうしても乗らなければならないというほどには短くない。


 

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