坊つちやん

夏目漱石(1956年刊 岩波書店・漱石全集第3巻)

2002.9.28読了 10.12メモ

夏になると読みたくなる漱石

岩波文庫版

中高生の夏休みの読書感想文向けとして、大手出版社の必ず実施する名作フェアが書店に並ぶ夏になると、僕もつられて漱石が読みたくなる。漱石は毎年、少しずつでも、何度でも、読み直してゆきたいと思う。長い夏休みは僕にはもうないが、夏の間、ちょっとずつ読み進めて行った。

『書斎のポ・ト・フ』で「寺田寅彦が、漱石の作では『猫』と『坊ちゃん』が一番傑作で、のびのびとして書かれている、それ以後の作品は窮屈であると、あたりはばからず素直な意見を述べているけれど、まったくその通りだと思うのよ」と開高健が述べている。確か丸谷才一も同じようなことを書いていたと思う。実は一昨年、『門』を読んだ後、『猫』をも再読しようと読み進めていたのだが、これももちろん面白いのだが、何分、学生の夏休みほどにまとまった時間がない分、途中で挫折してしまった。『坊つちやん』ならば、短くて必ず読み終えられるだろうと思って読んでみたものである。

これぞ、男子の生き方

確かに開高の紹介した寺田寅彦の述べるとおりで、漱石の主な作品の人物はとにかく「迷い」「悩む」。『それから』の代助、『門』の宗助、『こころ』の先生、私…(『三四郎』に出てくる美禰子もストレイ・シープ…とつぶやく)。迷い、悩むことが人の生の根源で、だからこそ小説という芸術が成り立つのだけれど、「猫」や「坊つちやん」は迷わない、悩まない。その抜けたような明るさがいい。

とにかく、『猫』と『坊つちやん』は、読んでいて何の気負いも衒いもなく愉しい。漱石の社会に対する目が、猫や坊ちゃんを通してストレートに語られている。近頃ベストセラーという『声に出して読みたい日本語』にも、きっと、この『坊つちやん』も入っているのだろう(実は読んでいない)。これほど一気呵成に読ませてくれる心地よさは他にない。

坊ちゃんの直情径行な一本気の性格は、誰の心にも受け入れられる。古きよき男子の潔い生き方が示されていて清々しい気持ちになれる。

清、山嵐、野だ、赤シャツ、うらなり君・・・それぞれの人物のキャラクターの愉快さ。『坊つちやん』の楽しさは、この、清以外の人物の、あだ名ゆえに親近感をもって小説の世界に自分もすんなりと入り込める点が大きい。

坊つちやんの明快さ、晴朗さ、実直さ、勇敢さ・・・の痛快であること。また、いったんは山嵐を目の敵にするが、やがて誤解が解けてお互いが仲直りする時の潔いこと。男子の(というより、人の)生き方としていつまでも読み継がれていってほしいものだと思う。特に小・中学生の子供たちには。漱石は日本という国を、社会の中の人の生き方を真摯に問い続け、そして小説という形で日本に誇れる偉大な財産を残した人物である。どうして、千円札から、教科書から消えてしまうのだろう。

満足度:★★★★★


 

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