その本当は本当か

坊っちゃんは本当にそれでおよろしいんですか?

先週日曜、22日付け日経新聞最終頁文化面は木内昇氏のエッセイ。3年前の年度末に掲載された「わからないから面白い」に続けての登場。

かつて体育会系女子として鍛えたソフトボール(のことは年末入院中に読んだ「みちくさ道中」で知った)を二十数年ぶりに地元チーム入りして再開したら最初、まるで身体が動かなかった。「これは本当の私じゃない」とさもしい言い訳をしてしまったことを切り出しに、誰もが「本当」と思う(思いたい)ところから外れた軌道を生きているが、生きている限り抜き身の自分で世と接しながら、理想に向けて努める甲斐がある、という結びになっている。

きれいにまとまりすぎている感の序と結末よりも、今回は、あまりうまくつながっていないように思える間の挿話の方が面白く、いわく、就職したての頃、氏は苦しくなると漱石の「坊つちやん」をよく読んだ。生(き)を貫く坊っちゃんが羨ましかった。坊っちゃんだって、もっと滑らかに社会を渡る方法はあった、鎧をまとえば傷付かず、適当なキャラをつくってそつなく周りと調和すれば学校を辞めることもなく済んだろうに、けれどそんな器用な坊っちゃんだったら、魅力は感じなかったろうと。

もちろん社会人たる者、礼儀を重んじTPOに沿った態度はとることは必要である。常に自己主張せよ、という話ではない。けれど仕事や人と対話する中で、「自分を守る」ことに重きを置き過ぎてはつまらないように思う。その場はうまくしのげても、上っ面な行いを重ねていくと、歳をとったとき、発する言葉に温度のない、見所の薄い人間になり果てる気がするのだ。

然り。角立てず自分を出さず、丸くなるだけなのもつまらないね。

氏の作品はたいてい脚光を浴びる立場でなく、地味ではあるが、己を貫いている人物を好んで取り上げる。自分を曲げない強い意志を好む氏の作品を、今後も同年生まれの一人として楽しみに読みたい。

20160522nikkei

 

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